子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

VAMPIRE WEEKEND「VAMPIRE WEEKEND」:パンクの後の熱気のような

2008年09月03日 22時44分45秒 | 音楽(新作レヴュー)
聴きはじめたのは今年の春先なので,新作として感想を記しておく時機はとうに失してしまったのだが,近年これだけ充実したデビュー作はそうはなかったと思われるくらい入れ込んでいる。半年を経過しても新鮮さは失われず,馴染んだメロディの楽しさはいや増すばかり。紹介してくれた二男への借りが,またひとつ増えてしまった。

コロンビア大学の4人が結成したマッシュ・アップ・バンド。アフロ・ビートをモチーフにした曲が多いが,最初の印象は,パンク・ムーブメントが一段落した頃,1980年前後にイギリス全土で数多く生まれた,主にレゲエにインスパイアされたバンドのそれに似ていた。
どちらも,オーバー・プロダクションを避け,基調となるビートに乗っかって踊る楽しさに溢れているところが共通しているが,レゲエだけに留まらず,フェラ・クティやティナリウェンをも通過してきていると覚しきニューヨーカーの懐は,決して年齢とキャリアだけでは判断できないほどに深いようだ。

ワールド・ミュージック界のマルコ・ポーロ,かのピーター・ゲイブリエルを揶揄しているような「Cape Cod Kwassa Kwassa」を引き合いに出すまでもなく,引き出しは多彩でリズム・アプローチも的確だ。そうかといって,決して耳年増にも頭でっかちにもなっておらず,そう高いとは言えない水準の演奏技術がかえって,自分達が面白いと思える音楽を奏でることの原初的な歓びを,ダイレクトに伝えてくる。
ビートに乗ってハミングしながら紡がれたようなメロディはどれも表情豊かで,シングルで大きなヒットを産み出す可能性も充分に感じられる。

アルバム全編から感じ取れる,宝物を見つけてはしゃぐ子供のような躍動感と,ヴォーカルのエズラ・クーニグのハイ・トーンには,ザ・ポリスの「アウトランドス・ダムール」を想起させるような高揚感がある。デビュー時に「ビートルズの記録を全て破る」と豪語しながら道半ばで散った彼らの足跡とはまた違ったルートで,同じ頂を目指す吸血鬼達の未来は,たとえ夜間限定の行動だとしても,明るい。
★★★★1/2


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