子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「家族の庭」:会話が一段落した後に訪れる気まずい沈黙を堪能する

2012年02月09日 23時36分19秒 | 映画(新作レヴュー)
何もそんなことまで言わなくても良いのに,とか,いい年して感情と表情がダイレクトにつながり過ぎ,とか,観ていて痛々しくなるような会話場面が全編にてんこ盛り。普通なら爽やかさとは縁遠い感想しか浮かんでこないような作品なのに,悲惨さで塗り固められたようなラストシーンが暗転した瞬間に,何故かメアリー(レスリー・マンヴィル)の困惑した表情から発せられる「それでも生きていく」という一条の光のようなメッセージが全てを優しく照らす。
マイク・リー監督の通算11作目となる新作は「秘密と嘘」以来の,極めつけに居心地の悪い傑作だ。

「足ること」を知り,土に親しむという,理想的なアプローチで老境に踏み込みつつある主人公夫婦(ジム・ブロードベントとルース・シーン)と,自己顕示欲とプライドが高く,自分の失敗を認めず,痛々しい程に孤独なメアリーとの交流を中心に,現代における人のつながりを描いた,マイク・リーならではのシニカルなホームドラマ。
布石やどんでん返しといった演出上の計算とは無縁なように見えて,自由な筋立て,闊達な会話が積み重なっていくうちに,ぐいぐいと感情が動かされていくという,いつもながらの展開に,今回も心からの拍手を送りたい。
冒頭でアン・リーの「ウッドストックがやってくる!」で演じた,まるで「意地悪ばあさん」そのもののようなモーテル・オーナーを彷彿とさせるような不眠症患者を演じたイメルダ・スタウントンが,それっきり物語に絡まないのも,あらゆる会話において,普通ならカットされるであろう会話が一段落した後の無言の数秒間が,言葉以上に雄弁に感情を伝えるのも,どちらも「今まさにマイク・リーの映画を観ているのだ!」という実感を与えてくれる。

そういった演出と会話の妙に加えて,今回はレスリー・マンヴィルの演技が際立った冴えを見せている。主人公夫妻の息子に一方的に好意を寄せ,すべてのことを自分の都合から解釈して,うまくいかないと不貞腐れるという,絶対にお近付きにはなりたくないタイプの女性が抱く孤独を,ここまでリアルに演じ切ったのは,リー作品への出演が9作目となるキャリアが醸成したであろう,お互いの信頼感とヴィジョンの共有の賜物だ。

何気ない会話が,下手なアクション映画が裸足で逃げ出すようなスリリングな緊張感を持つに至ったという奇跡を,是非劇場で確かめて欲しい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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