映画とライフデザイン

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映画「盗まれたカラヴァッジョ」 ミカエラ・ラマッツォッティ&レナート・カルペンティエリ

2020-01-19 10:51:03 | 映画(自分好みベスト100)
映画「盗まれたカラヴァッジョ」を映画館で観てきました。

これはおもしろい!

上質なサスペンスである。スペインのペドロ・アルモドバル監督作品を思わせる不安を呼び起こす音楽がバックに流れ、息をのむような緊張感あふれるシーンが続く。有名脚本家のゴーストライターがカラヴァッジョ盗難事件に関わる話を人から教えられる。それを元に書いた脚本の内容がまさに事実で、実際にからんだマフィアから狙われるという話である。


映画プロデューサーの秘書ヴァレリア(ミカエラ・ラマッツォッティ)は、秘かに人気脚本家アレッサンドロ(アレッサンドロ・ガスマン)のゴーストライターを務めていた。ネタが尽いているにも関わらず、なんとか新作を書いてくれとアレッサンドロに頼まれている。ある日、ラック(レナート・カルペンティエリ)と名乗る謎の男と市場で出会った。その夜番号を知らせていないのにラックから携帯に電話が入り驚く。ヴァレリアがゴーストライターをしていることも、母親のアマリア(ラウラ・モランテ)と二人で暮していることも知っていた。ラックから秘密を厳守する君に書いてほしいこんな話があると教えてくれる。


1969年に起きた今も未解決のカラヴァッジョの名画「キリスト降誕」盗難事件の顛末にはマフィアが絡んでいる。しかも、近年起きたある美術評論家殺人事件にも繋がっているという。ヴァレリアが「名もない物語」というタイトルをつけたプロットにまとめると、プロデューサーは最高傑作だと絶賛し、映画化が決定する。監督には引退を表明していた巨匠クンツェ (イエジー・スコリモフスキ)が就任し、中国から多額の製作費が出資されることも決定した。

そのころ、アレッサンドロはプロデューサーにはシナリオを書くと嘘をついて、愛人イレーネとバカンスを楽しんでいた。映画化されるプロットが自分たちに関わる話だと気づいたマフィアに拉致される。事件の真相を誰から聞いたのかと尋問された上に半殺しにされ、意識がない状態で発見される。それでも、ヴァレリアはラックの協力のもと、“ミスター X”の名前でアレッサンドロのアドレスからシナリオを送り続ける。焦るマフィアはあらゆる手を使って“ミスター X”が誰かを突き止めようとするのであるが。。。

1.真実を暴露する側と恐れるマフィア
登場人物が多い映画である。だからといって複雑すぎるストーリーにはなっていない。味方と敵のどっちにもつかないような人物がいないからかもしれない。ゴーストライターであるヴァレリアと実際の事件を教えヴァレリアの良き相談役になるラックを味方とすると、カラヴァッジョ盗難事件につながる美術評論家殺人事件に絡んだマフィアたちとその利害関係にある人が敵である。


当の人気脚本家アレッサンドロは完全な極楽とんぼの遊び人。激賞されたゴーストライターの書く脚本にまったく関心がない。影で操るラックの存在を知る訳もない。逆に、マフィアは表向きの脚本家であるアレッサンドロが誰かから聞いたんだろうと徹底的に拷問する。脚本家が自分が書いたと言い張ればなおさらだ。

街の市場で、今日のおかずは何にしようかと思慮しているヴァレリアにカンパチがいいよと勧める老人に過ぎなかったはずなのに、 ラックは脚本のネタになるいい話を伝えてくれるキーマンとなる。しかも、 ヴァレリアの身に危険が及ぶと的確な意見を言って助けてくれる。いったいこの老人の正体は何か?もしかしてカラヴァッジョ盗難事件に絡んだ仲間割れなのか?見ている自分にもよくわからない状況が続き流れを追う。

⒉ミステリー映画のハイテク化
カラヴァッジョ盗難事件は1969年なので設定がひと時代前かと思いや、あくまで現代である。携帯電話、パソコン、メールばかりでなく、隠しカメラによるリアル映像、イヤホンでの遠隔操作などハイテク化したツールが謎解きのカギになる。時代設定が古いと現代の産物が使えず、推理が勘の世界になる。それはそれでいい時もあるが、この映画のようにハイテクの産物を通すと納得性が増す。


ブライアン・デ・パルマ監督作品と似たような雰囲気が映画の根底に流れている。ロベルト・アンドー監督はパルマやアルモドバルのミステリーサスペンスに影響されている印象を持つ。ただ、現代のハイテクツールがいたるところで使われていて、 ミステリー映画 が進化しているという感じがする。

⒊主人公の七変化
メガネをかけたインテリ秘書という風貌で登場する。しばらくは変わらないが、ゴーストライターとしての自身の秘密がばれそうになると感じるようになり、変身をする。このあたりの七変化が面白い。化粧をきっちりして、髪の毛をピタッと固めて、エロチックな下着を着る。からだを張って男が緩むように振るまう。まるで変態趣味を持っているようにだ。そうすると男の焦点がずれる。こういうエロチックなところも ブライアン・デ・パルマ監督作品に通じる。


映画のラストに向けてはテンポが速くなり、スケールも拡大する。え!この人まで絡んでくるのというように登場人物総動員でストーリーを作る。敵はいずれもつわものだ。何をされるかわからない。ドキドキ感がたまらない。そのあとで、「映画の中の映画」の手法を使い、おお!こう来たかとエンディングに向けていく。十分に堪能できた。完全に理解するためにもう一度見てもいいなと感じさせる作品である。
コメント
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