映画とライフデザイン

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映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」 渥美清&山田洋次

2020-01-01 08:00:01 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」を映画館で観てきました。


渥美清が亡くなった後、当然続編はないと思っていた「男はつらいよ」の新作制作発表が昨年あった。そのときからどんな映画になるのであろうかと興味津々である。寅さんのおい吉岡秀隆の初恋の相手後藤久美子は中年の域に達して美しさに磨きがかかった。数年前CMでその姿をみてこんな美女誰なんだろうと思い、しばらくして後藤久美子とわかりドキドキした。その後藤久美子山田洋次監督が出演依頼のお手紙を送ったという逸話があまりに素敵である。

妹夫妻倍賞千恵子、前田吟の夫婦も老いたがまだ健在、寅さんが最も親しかったといえるリリー役の浅丘ルリ子後藤久美子の母親役の夏木マリもその姿を見せる。

映画がはじまり「男はつらいよ」の主題歌を歌う桑田佳祐の姿には思わず涙してしまう。


映画の途中でも、満男がおじさんの思い出を語ると往年の渥美清の姿が出てくる。ちなみにこの映画で寅さんこと車寅次郎が亡くなったとは一言もセリフでは出てこない。昔ながらの柴又の家の仏壇においちゃん、おばちゃんこと下條正巳三崎千恵子の遺影はあるが、渥美清の写真はない。意図的であろう。

諏訪満男(吉岡秀隆)は、妻を6年前に亡くし中学三年生の娘と二人暮らし、サラリーマンをやめて小説家になっていた。妻の七回忌の法要で柴又の実家を訪れた満男は、母・さくら(倍賞千恵子)と父・博(前田吟)、たこ社長の娘(美保純)たちと伯父・寅次郎との楽しかった日々を思い起こしていた。その一方で出版社の担当者(池脇千鶴)から依頼を受けている次回作の執筆にはいまいち乗り気になれなかった。


それでも、最新著書の評判は良いので出版社から書店でのサイン会に出てくれと言われいやいや引き受ける。そのころ、満男の初恋の人である泉(後藤久美子)は国連難民高等弁務官事務所の東京でのシンポジウムに出席するためヨーロッパから来日していた。所用を終え書店へ立ち寄ると、偶然満男のサイン会のポスターに気づく。そして、満男のサイン本を求める列に並ぶ。初恋の人泉の姿を突然一瞥して満男は呆然とする。

その後、旧交を温めるため、ゆっくり話ができる神保町の喫茶店に向かう。そこには伯父寅さんがもっとも心を許したリリー(浅丘ルリ子)がいた。寅さんの思い出を語った後で2人は柴又の満男の実家へ向かうのであるが。。

見れば見るほど後藤久美子がいなければ、成立しないストーリーである。それだけに山田洋次監督の心のこもった手紙に感動する。後藤久美子演じる泉は家庭環境の複雑さから欧州に向かったという。帰るところもないと。

倍賞千恵子演じるさくらに親しみを感じ、うちに泊まっておいでよと言われて素直に泊まる姿に好感が持てる。普通女はこういうとき、なかなか泊まらないものだ。一般にも嫁が夫の実家を訪ねて母親が泊まっていけと言っても、嫁は意地でも泊まらないでいさかいを起こすことが多い。そういう女性同士の関係にも踏み込んだ脚本である。


1.浅丘ルリ子
後藤久美子を引き連れ吉岡秀隆は神保町の喫茶店に向かう。地下に降りていくと照明を落とした雰囲気のあるお店だ。そこの店主がリリーこと浅丘ルリ子である。さすがに御年79歳の浅丘ルリ子も往年の美人女優の面影はかなり薄らいでおり、どちらかというとホラー映画にしか登場できないくらいの妖怪的存在だ。

こういう暗い照明の方がいいだろうと山田洋次監督が心配りしたのであろう。寅さんの求愛を受けたことがあったという昔話が、当時の映像を含めて映し出される。さすがに日活時代の美貌ほどではないが昔のリリーは美しい。


2.夏木マリ
後藤久美子が父親を探しに九州の日田に向かう作品は「寅次郎の休日」である。夏木マリ演じる母親のもとを離れ、寺尾聰演じる父親は宮崎美子演じる若い薬剤師と2人で暮らしている。元々は父親に戻ってほしいと言いに日田に向かおうとしていた。新幹線のホームまで満男が見送りに来ていたが、発車間際に思わず乗車してしまう。満男が向かったことを知り、寅さんも泉の母親と夜行列車で日田へ向かう。泉は結局会えたが、幸せそうな父親を見てそのまま立ち去る。


後藤久美子が九州に旅発つ新幹線に吉岡秀隆が思わず乗ってしまうシーン、渥美清と夏木マリが今は亡きブルートレインの寝台列車に乗り込んで酒盛りしながら九州に向かうシーン、父親に会ったけど幸せそうなので何も言えないと夏木マリ後藤久美子から聞いて泣き崩れるシーン、3つのシーンがこの映画でも映し出される。

クラブのママ役である夏木マリも適役である。今回も前回同様の水商売キャラは変わらない。理由はわからないが、泉の父親役は寺尾聰から橋爪功に替わる。娘の旦那と思って吉岡秀隆に金をせびるシーンは橋爪功らしい老練さが感じられる。

泉に会えたのは満男にとっては夢のような日々だった。その満男をみて、「お父さん3日間まるで遠くに行ってしまったようだ」と娘がいうシーンがある。これってデイヴィッド・リーン監督の名作映画「逢びき」のラストシーンで、軽い不倫で心ここにあらずになっていた妻に対して夫が言う名シーンを連想させる。吉岡秀隆にとっても帰国する泉を見送るときのナイスなシーンはまさに役得だったであろう。

渥美清独特のテキ屋の口上が響き、最後に向かっては、歴代のマドンナが登場する。吉永小百合、樫山文枝、竹下景子や最近鬼籍に入った京マチ子、八千草薫、48作の中でも指折りの名作のマドンナ太地喜和子池内淳子、新珠三千代などの故人も顔を見せる。一番最後に映るのは初代マドンナである光本幸子というのはまさに敬意を表してだろう。
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