映画「凪待ち」を映画館で観てきました。
白石和彌監督の新作は香取慎吾の主演でギャンブル依存症の男を描いている。これも転落の物語である。SMAP解散後、ジャニーズ事務所から飛び出した3人が続いて映画に出演している。ぼそぼそという口ぶりの香取慎吾はしゃべりがうまいというタイプではない。体格がよく全身で演技するという面では白石和彌監督の演出もよく、思いっきりこの役に浸っている。
これでもかこれでもかと主人公は転落ベクトルの波状攻撃で谷底に何度も落ちるような思いを味わう。バッドエンドで終了してしまうような映画の予感が途中してきた。でも、予想外の展開に驚くと同時に、絶望の状態に軽い光を差し込むやさしさがみえて後味はわるくない。
仲間と競輪三昧でぶらぶらしていた木野本郁男(香取慎吾)は川崎の工場を辞めて、同居人である恋人・亜弓(西田尚美)の故郷・石巻に戻る決心をした。そこには、末期がんであるにも関わらず、石巻で漁師を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)がいた。亜弓の娘・美波(恒松祐里)は、引っ越しを余儀なくされ不服を抱いている。美波を助手席に乗せ、高速道路を走る郁男に美波の声が響く。
「結婚しようって言えばいいじゃん」半ばあきらめたように応える郁男。
「言えないよ。仕事もしないで毎日ぶらぶらしてるだけのろくでなしだし…」
実家では、近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)が勝美の世話を焼いていた。人なつっこい小野寺は、郁男を飲み屋へ連れていく。そこで、ひどく酒に酔った村上(音尾琢真)という中学教師と出会う。村上は、亜弓の元夫で、美波の父だった。新しい暮らしが始まり、亜弓は美容院を開業し、郁男は印刷会社で働きだす。
そんな折、郁男は、会社の同僚が競輪の予想記事をみてだべっているところに口出しをする。こいつも仲間だとわかり、同僚から競輪に誘われる。公営競輪場はないが、町の一角にノミ屋があるのだ。郁男のアドバイス通りにすると大当たり、これが間違いの始まりだった。
ある日、美波は部屋からタバコが見つかったことで亜弓と衝突し家を飛び出す。その夜、戻らない美波を心配しパニックになる亜弓。落ち着かせようとする郁男を亜弓は激しく非難するのだった。
「自分の子供じゃないから、そんな暢気なことが言えるのよ!」
激しく捲くし立てる亜弓を車から降ろし、ひとりで探すよう突き放す郁男。だが、その夜遅く、亜弓は遺体となって戻ってきた。郁男と別れたあと、防波堤の工事現場で何者かに殺害されたのだった。突然の死に、郁男と美波は愕然とする。
「籍が入ってねえがら、一緒に暮らすごどはできねえ」
年老いた勝美と美波の将来を心配する小野寺は美波に言い聞かせるのだった。一方、自戒の念が強い郁男も寂しさがつのり、やがて競輪のノミ行為にはまっていく。その後郁男は、社員をトラブルに巻き込んだという濡れ衣をかけられ解雇となるのであるが。。。
(作品情報 引用)
作品情報には石巻と書いてあるが、映画では宮城県に行くとしか言っていない。それでも、津波にのまれた話や日本製紙の大きな工場の映像で石巻であることがわかる。水量の多い旧北上川の河口が印象的だ。三回行けば一生金に困らないという金華山には5回も行った。その時に石巻にも泊まった。このおかげでギャンブルにもハマらず助かっている。
1.競輪とギャンブル依存症
一時期競輪が好きになった時期があった。好みはあるだろうが、非常に高度な推理ができてたのしい。強い風圧の関係で競輪は誰かの後ろ(番手)について走った方が有利である。そのため最も強い「逃げ選手」の番手についた選手が本命になるケースが多い。そこを別線の逃げ選手はそうは簡単に逃げさせまいと駆け引きをする。先行は一車なのか?先行型のどちらが優位になるのか?その番手はだれがとるのか?先行型はまくりにまわるのか?という競輪の基本推理はあるけれど、力が均衡していると直線になれば誰が上位に入選するのかわからないのだ。
いろいろ考えてもなかなか当たらない。やられるのはわかっても好きなものは好きということで平日の昼間からたくさんの人が競輪をやっている。そしてやられる。だから競輪場から駅までの間はオケラ街道と言われる。
2.郁男の転落
もともと郁男(香取慎吾)は川崎競輪に入り浸りの生活だった。同居人の女性が実家に帰るのでついていく。まさに髪結いの亭主だ。もともとの仲間から宮城は競輪場がないねと言われ足を洗うつもりだった。ところが、同僚がスポーツ新聞の競輪記事をみて予想している。郁男も気になる。同僚の予想に対して「この強い先行選手に番手はついていけないはずだから、薄めの選手との車券をおさえておいた方がいい」という。競輪好きならわかるセリフだ。
もっともらしいアドバイスなので、こいつは競輪を知っているなと仲間に思わせる。それが間違いのもとだった。思えば、こういうことってあるかもしれない。しばらくの間麻雀やその他ギャンブルに手を出していなかったのに、異動先でこんな会話がきっかけでまたやるようになる。そしてはまる。人生ってこんな感じじゃないだろうか?
3.ノミ屋の店長のふるまい
ノミ屋といっても若い人はわからないだろう。私設競輪売り場である。当然違法、反体制勢力の資金源である。公に行われているレースと同じように買えるのだ。今は場外車券場やネットで購入するシステムができたが、昔はそういうのはなかった。客にタネ銭がなければ、町金金利で用立てる。
ノミ行為に郁男は引っかかった。やられっぱなしで借金が積む。それでも挑戦して当てるのだ。やったとばかり配当を回収しようとする。大金かけているから払い戻しが多い。大慌てのノミ屋の店主は店の外へ逃げる。香取が大きな体で追う。捕まえたとき、店主は勝った控えをなんと口に飲み込んでしまう。飲み込んでしまうからノミ屋なんだと。これをギャンブル好きの親父が見たら笑えるけど、SMAPの香取君が好きで見に来た人はわかるのかな。笑いは起きず。若いころノミ屋で馬券買わないかと友人に何回か言われたことがある。これだけは経験がないのは幸いしている。
競輪の話もちきりのこの映画だけど、白石和彌監督がギャンブルはしないという。アウトローの映画ばかり撮っているのにちょっと意外。脚本家はギャンブル好きじゃないと書けないんじゃないかしら?でもこの映画血を超えた交情が本当のテーマなんだろう。それはみているとよくわかる。
白石和彌監督の新作は香取慎吾の主演でギャンブル依存症の男を描いている。これも転落の物語である。SMAP解散後、ジャニーズ事務所から飛び出した3人が続いて映画に出演している。ぼそぼそという口ぶりの香取慎吾はしゃべりがうまいというタイプではない。体格がよく全身で演技するという面では白石和彌監督の演出もよく、思いっきりこの役に浸っている。
これでもかこれでもかと主人公は転落ベクトルの波状攻撃で谷底に何度も落ちるような思いを味わう。バッドエンドで終了してしまうような映画の予感が途中してきた。でも、予想外の展開に驚くと同時に、絶望の状態に軽い光を差し込むやさしさがみえて後味はわるくない。
仲間と競輪三昧でぶらぶらしていた木野本郁男(香取慎吾)は川崎の工場を辞めて、同居人である恋人・亜弓(西田尚美)の故郷・石巻に戻る決心をした。そこには、末期がんであるにも関わらず、石巻で漁師を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)がいた。亜弓の娘・美波(恒松祐里)は、引っ越しを余儀なくされ不服を抱いている。美波を助手席に乗せ、高速道路を走る郁男に美波の声が響く。
「結婚しようって言えばいいじゃん」半ばあきらめたように応える郁男。
「言えないよ。仕事もしないで毎日ぶらぶらしてるだけのろくでなしだし…」
実家では、近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)が勝美の世話を焼いていた。人なつっこい小野寺は、郁男を飲み屋へ連れていく。そこで、ひどく酒に酔った村上(音尾琢真)という中学教師と出会う。村上は、亜弓の元夫で、美波の父だった。新しい暮らしが始まり、亜弓は美容院を開業し、郁男は印刷会社で働きだす。
そんな折、郁男は、会社の同僚が競輪の予想記事をみてだべっているところに口出しをする。こいつも仲間だとわかり、同僚から競輪に誘われる。公営競輪場はないが、町の一角にノミ屋があるのだ。郁男のアドバイス通りにすると大当たり、これが間違いの始まりだった。
ある日、美波は部屋からタバコが見つかったことで亜弓と衝突し家を飛び出す。その夜、戻らない美波を心配しパニックになる亜弓。落ち着かせようとする郁男を亜弓は激しく非難するのだった。
「自分の子供じゃないから、そんな暢気なことが言えるのよ!」
激しく捲くし立てる亜弓を車から降ろし、ひとりで探すよう突き放す郁男。だが、その夜遅く、亜弓は遺体となって戻ってきた。郁男と別れたあと、防波堤の工事現場で何者かに殺害されたのだった。突然の死に、郁男と美波は愕然とする。
「籍が入ってねえがら、一緒に暮らすごどはできねえ」
年老いた勝美と美波の将来を心配する小野寺は美波に言い聞かせるのだった。一方、自戒の念が強い郁男も寂しさがつのり、やがて競輪のノミ行為にはまっていく。その後郁男は、社員をトラブルに巻き込んだという濡れ衣をかけられ解雇となるのであるが。。。
(作品情報 引用)
作品情報には石巻と書いてあるが、映画では宮城県に行くとしか言っていない。それでも、津波にのまれた話や日本製紙の大きな工場の映像で石巻であることがわかる。水量の多い旧北上川の河口が印象的だ。三回行けば一生金に困らないという金華山には5回も行った。その時に石巻にも泊まった。このおかげでギャンブルにもハマらず助かっている。
1.競輪とギャンブル依存症
一時期競輪が好きになった時期があった。好みはあるだろうが、非常に高度な推理ができてたのしい。強い風圧の関係で競輪は誰かの後ろ(番手)について走った方が有利である。そのため最も強い「逃げ選手」の番手についた選手が本命になるケースが多い。そこを別線の逃げ選手はそうは簡単に逃げさせまいと駆け引きをする。先行は一車なのか?先行型のどちらが優位になるのか?その番手はだれがとるのか?先行型はまくりにまわるのか?という競輪の基本推理はあるけれど、力が均衡していると直線になれば誰が上位に入選するのかわからないのだ。
いろいろ考えてもなかなか当たらない。やられるのはわかっても好きなものは好きということで平日の昼間からたくさんの人が競輪をやっている。そしてやられる。だから競輪場から駅までの間はオケラ街道と言われる。
2.郁男の転落
もともと郁男(香取慎吾)は川崎競輪に入り浸りの生活だった。同居人の女性が実家に帰るのでついていく。まさに髪結いの亭主だ。もともとの仲間から宮城は競輪場がないねと言われ足を洗うつもりだった。ところが、同僚がスポーツ新聞の競輪記事をみて予想している。郁男も気になる。同僚の予想に対して「この強い先行選手に番手はついていけないはずだから、薄めの選手との車券をおさえておいた方がいい」という。競輪好きならわかるセリフだ。
もっともらしいアドバイスなので、こいつは競輪を知っているなと仲間に思わせる。それが間違いのもとだった。思えば、こういうことってあるかもしれない。しばらくの間麻雀やその他ギャンブルに手を出していなかったのに、異動先でこんな会話がきっかけでまたやるようになる。そしてはまる。人生ってこんな感じじゃないだろうか?
3.ノミ屋の店長のふるまい
ノミ屋といっても若い人はわからないだろう。私設競輪売り場である。当然違法、反体制勢力の資金源である。公に行われているレースと同じように買えるのだ。今は場外車券場やネットで購入するシステムができたが、昔はそういうのはなかった。客にタネ銭がなければ、町金金利で用立てる。
ノミ行為に郁男は引っかかった。やられっぱなしで借金が積む。それでも挑戦して当てるのだ。やったとばかり配当を回収しようとする。大金かけているから払い戻しが多い。大慌てのノミ屋の店主は店の外へ逃げる。香取が大きな体で追う。捕まえたとき、店主は勝った控えをなんと口に飲み込んでしまう。飲み込んでしまうからノミ屋なんだと。これをギャンブル好きの親父が見たら笑えるけど、SMAPの香取君が好きで見に来た人はわかるのかな。笑いは起きず。若いころノミ屋で馬券買わないかと友人に何回か言われたことがある。これだけは経験がないのは幸いしている。
競輪の話もちきりのこの映画だけど、白石和彌監督がギャンブルはしないという。アウトローの映画ばかり撮っているのにちょっと意外。脚本家はギャンブル好きじゃないと書けないんじゃないかしら?でもこの映画血を超えた交情が本当のテーマなんだろう。それはみているとよくわかる。