きのう紹介した『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』(2000年 アメリカ映画)は、個人的にとてもショックな映画でした。それは、ローラ・リニー演じた主人公が、それまでの痛みの経験をこらえて、子供を育て、また不安定な弟と葛藤しながらも心配する真面目な女性でありながら、しかし、というより、だからこそ、男とのセックスにどうしようもない楽しみを見出していく過程をリアルに描いていたからです。
その恋愛、そのセックスは、相手は既婚者ですが、普通の恋愛ではないし、ただのセックスでもない。リニー演じるヒロインは彼のことを気に入っているし、彼と会うことにワクワクしている。
相手の男性が結婚しているからこそ、ヒロインは彼が魅力的に見えたのかもしれません。30代半ばで懸命に働くシングル・マザーにとっては、独身の男よりも、ちゃんと家庭をもつエリート・サラリーマン(彼はヒロインのボス)の方が「強い」存在と思えたのかもしれません。だからこそヒロインは、同じ年代でも独身のボーイ・フレンドを捨てて、自分のボスを気に入っていきます。
それまでの人生で痛みを抱えているヒロインは、強い存在、ちゃんとした家庭人、ちゃんとした社会人、これらの要素を備えた男でなければ、自分を包んでくれるようには思えなかったのでしょう。
分別のある彼女は、ボスとの関係が長続きすべきではないことを知っていますし、自分から別れを切り出して、映画の最後ではちゃんと関係は終わります。
ただそれでも、今思い出しても、二人が抱き合う場面は、観ていて強い痛みが感じられるシーンの連続でした。真面目で健気に生きる女性が、いったん「男」に喜びを見出したときの行動は、自分の痛みを忘れさせるオアシスをみつけたような、また幻想のオアシスを見つけたような、享楽に吸い寄せられているような行動に見えました。
同時に、彼女のセックス・シーンがショックだったのは、彼女が「母親」だったからかもしれません。「母親」が一人の女性として痛みを抱えているというその事実と、それを忘れるために「男」に吸い寄せられていくという事実が、男の観客としてショックだったのかもしれません。
そのショックの度合いは、若い男性と関係をもつ主婦をリアルに描いた『運命の女』(ダイアン・レイン主演 2002年 アメリカ映画)の比ではありませんでした。
『運命の女』には、多くのセックス・シーンが出てくるし、レインのヌード・シーンもたくさんあります。 しかし、わたしはそれを観ても、監督のエイドリアン・ラインは見せ場の作り方が上手いなぁという感想が湧いてくるだけです。なぜなら、『運命の女』のヒロインは、恵まれた美人の主婦が、自分の退屈な生活を紛らわすために若い男の虜になっただけだからです。
しかし『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』は違います。この映画のヒロインがボスとの恋愛に夢中になるのは、それまでの自分の人生の痛みからの逃避という意味合いが感じられるように思います。だからこそ彼女がボスと会うときに夢中になる楽しそうな顔は、とても必死なもののように見えるし、観客はそれを観て彼女(と自分)の痛みを感じてしまうのです。
なぜわたしがこの映画に、そしてローラ・リニー演じるヒロインの行動にこんなにショックを受けたのかは、まだ正確にはわかりません。ただ、本当にとても強い印象に残った場面のある映画でした。
涼風
その恋愛、そのセックスは、相手は既婚者ですが、普通の恋愛ではないし、ただのセックスでもない。リニー演じるヒロインは彼のことを気に入っているし、彼と会うことにワクワクしている。
相手の男性が結婚しているからこそ、ヒロインは彼が魅力的に見えたのかもしれません。30代半ばで懸命に働くシングル・マザーにとっては、独身の男よりも、ちゃんと家庭をもつエリート・サラリーマン(彼はヒロインのボス)の方が「強い」存在と思えたのかもしれません。だからこそヒロインは、同じ年代でも独身のボーイ・フレンドを捨てて、自分のボスを気に入っていきます。
それまでの人生で痛みを抱えているヒロインは、強い存在、ちゃんとした家庭人、ちゃんとした社会人、これらの要素を備えた男でなければ、自分を包んでくれるようには思えなかったのでしょう。
分別のある彼女は、ボスとの関係が長続きすべきではないことを知っていますし、自分から別れを切り出して、映画の最後ではちゃんと関係は終わります。
ただそれでも、今思い出しても、二人が抱き合う場面は、観ていて強い痛みが感じられるシーンの連続でした。真面目で健気に生きる女性が、いったん「男」に喜びを見出したときの行動は、自分の痛みを忘れさせるオアシスをみつけたような、また幻想のオアシスを見つけたような、享楽に吸い寄せられているような行動に見えました。
同時に、彼女のセックス・シーンがショックだったのは、彼女が「母親」だったからかもしれません。「母親」が一人の女性として痛みを抱えているというその事実と、それを忘れるために「男」に吸い寄せられていくという事実が、男の観客としてショックだったのかもしれません。
そのショックの度合いは、若い男性と関係をもつ主婦をリアルに描いた『運命の女』(ダイアン・レイン主演 2002年 アメリカ映画)の比ではありませんでした。
『運命の女』には、多くのセックス・シーンが出てくるし、レインのヌード・シーンもたくさんあります。 しかし、わたしはそれを観ても、監督のエイドリアン・ラインは見せ場の作り方が上手いなぁという感想が湧いてくるだけです。なぜなら、『運命の女』のヒロインは、恵まれた美人の主婦が、自分の退屈な生活を紛らわすために若い男の虜になっただけだからです。
しかし『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』は違います。この映画のヒロインがボスとの恋愛に夢中になるのは、それまでの自分の人生の痛みからの逃避という意味合いが感じられるように思います。だからこそ彼女がボスと会うときに夢中になる楽しそうな顔は、とても必死なもののように見えるし、観客はそれを観て彼女(と自分)の痛みを感じてしまうのです。
なぜわたしがこの映画に、そしてローラ・リニー演じるヒロインの行動にこんなにショックを受けたのかは、まだ正確にはわかりません。ただ、本当にとても強い印象に残った場面のある映画でした。
涼風
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます