月あかりの予感

藤子不二雄、ミュージカル、平原綾香・・・好きなこと、好きなものを気の向くままに綴ります

街角花だより

2007年03月16日 20時20分30秒 | 漫画(藤子以外)
待ちに待ってた、こうの史代先生の最新刊「街角花だより」が発売になりました。実は発売は少し前なのですが、随分前に予約してあったアマゾンから到着したのは今朝。遅いってのっ

まず装丁がとっても素敵です。カバー裏とトビラにオシャレな仕掛けが。気分は「花ひな」または「明石花店」でお花を買ってきた感じですね。

そして、本の構成そのものに壮大な謎解きが(笑)。予備知識が全然なかった私は、読み始めに少し戸惑いましたが、あとがきと初出誌一覧を見て納得。これを書いてしまうとネタバレになってしまうので、こうのファンの方は、ぜひ本を手にとって何が「謎」なのか見つけてください。その謎が解けると、「えっ?」が、「なぁんだ」とともに、なんともいえない微笑みに変わっていることでしょう。

内容は相変わらずの温かさ。こうの先生いわく「漫画家としての第一歩」を踏み出した作品(1995年)から、ごく最近(今年2月号掲載)に描かれた作品までが収録されているのですが、こうの先生の絶妙なテイストと作風は、その「第一歩」の段階で、既にほぼ出来上がっていたんだなぁと、その良い意味での「変わらなさ」に、(作者の思惑は別として読者としては)ほっと胸をなで下ろしました。

どこか謎に包まれたうらら店長と、主人公りんさんのやり取りが、何ともユーモラスで良いです。少しキツめの雰囲気があるりんさん。次第にうらら店長のペースに乗せられているうち、気がつけばお互いに、かけがえのない存在になっている…。中でも「街角花語り」はとても印象的な作品です。この作品を含めて、ほぼ全ての作品で落としはギャグですけど、こうの作品ではギャグもとっても重要なのです。笑いとペーソスの絶妙な融合とでも言うのでしょうか。

合間に挟まれた2本の短編も良い味を出しています。「願いのすべて」のノンちゃんは本当に可愛い。本当に秀さんが好きで好きでたまらないんだろうなぁ。もちろん根源的には恋愛とは違う感情でしょうけど、同性とでも、大人と子どもでも、人間と動物でも、相手のことを本当に思うとき、どこか恋愛のような感情も芽生えるのかもしれません。あわわ、ネタバレしかけた(^^);

こうの作品では、時折とてつもないムードと空気に包まれた大ゴマに、思わずハッとさせられます。この本でいうなら、33ページ、48ページ、76ページ、84ページ、そして90~91ページ、102ページ、113ページ…あぁ、キリがない。本屋さんでパラパラと眺めて頂いて、これらのコマの空気に胸がドキドキしたり、しばらくページを凝視してしまったり、何か大切な記憶を思い出した方は、この本はあなたの心の本棚に、きっと似合うと思います。

コミック
こうの史代 著
街角花だより
双葉社

で購入

映画ストーリー「新魔界大冒険」

2007年03月16日 07時46分16秒 | 藤子不二雄
映画を観る前に、岡田康則さんが描いた映画ストーリー「ドラえもん のび太の新魔界大冒険」を読みました。カバーの著者名は大きく岡田さんの名前が書かれているのに、奥付の著者表記は「藤子・F・不二雄プロ」となっているのが少し不思議ですが(^^);

映画を予備知識なしに観るのも良いんですけど、今回の作品の大まかなストーリーは原作(今回の記事での「原作」とは、1984年公開の映画「のび太の魔界大冒険」のことも含めた意味で書きます)と同じということもあって、ほぼ把握していましたからね。それにテレビの事前特番等で内容を「見せすぎ」だったこともあり、観る前に「美夜子のお母さんって、もしかして…(自主規制)」と思ったのが、この「映画ストーリー」を読むと見事にビンゴしてしまいましたし(^^);

そもそも、原作がコロコロに連載されていた当時は、まず原作を読んでストーリーを把握してから映画を観に行くのが、毎年の恒例行事になっていましたし、先にストーリーを知ってしまうこと自体に違和感はないです。映画館では、映画ならではの映像表現を存分に楽しみたいと思っています。

さて、それで真保裕一さんの書いたストーリー全体を漫画で読んだわけですが、第一印象としては純粋に面白かったです。原作で描かれていない部分などが、真保さんのシナリオによって補完されているのですが、違和感は少なく感じました。映画が公開中なので、ネタバレしない程度に書いておきますと、たとえば魔法世界で魔界星が接近していることについて、現実世界で同じようなことが起きているかどうかは、原作では特に触れられていませんが、地球にある危機が迫っていることを先に提示しておいて、それが魔法世界が作られたことにより、魔界星の侵略として表れた(それをドラえもんたちが解決することにより、同時に現実世界での危機も免れた)ことになっています。美夜子さん、満月博士(牧師)など、魔法世界の住人も現実世界でしっかり存在していて、現実世界での美夜子の存在(魔法世界にしか存在しない彼らは、一体どこからやってきたのか?)なども含めて、数々の疑問点も解決できるようにはなっています。もっとも、原作の美夜子との別れのシーンが私は切なくて好きなので、今回は構成上のび太たちとの別れのシーンが薄く感じるのが少し残念ではありますが…。のび太たちとは現実世界で面識がないので、確かに別れといえば別れなんですが、見知らぬ同士として会おうと思えば会えてしまうわけですし(^^);

藤子先生が原作を書いた時点では、映画化を前提として物語が組み立てられていますから、ドラえもんたちが魔法世界で活躍するということが重要であり、現実世界との対応までは考えていなかったか、考えていたとしても原作の枠組に収まらなかったのではないかと思います。原作でそのあたりの設定が明確にされていないこともあって、この作品自体、外伝的なお話が考えられやすい構造をしています。内容等は失念してしまいましたので、今回の「新魔界大冒険」に何らかの影響を与えたかどうかは分かりませんが、昔発売されていた「ドラえもんクラブ」という雑誌にも、作家の方が書いた小説版(挿絵を芝山努さんが担当)が掲載されていたのを思い出します。そういえば、その小説にも魔美をイメージするキャラが登場していました。

真保さんのシナリオでは、そうしたバックグラウンドへの言及や、矛盾点・問題点の解決(石ころ帽子→モーテン星に変更、唐突さが否めなかったドラミちゃんの登場の伏線など)も含めて作られていて、「ドラえもん」がやりたくてシンエイ動画に入ったと明言しているだけあって、やはり藤子作品をよく理解している方なんだなぁと改めて感じました。それだけではなく人気作家としても大活躍されている方ですからね。私はデビュー作の「連鎖」しか読んだことがありませんが、今後はぜひ他の作品も読んでみたいと思っています。

ただし、「魔界歴程」が2つに分かれたというエピソードは、全く生かされていませんでしたね。おそらく「下巻」にデマオンの心臓についての言及が記されているようにするつもりだったのに、それがあるキャラクターの口から語られるという内容に途中で変更されたため、誤って残ってしまった設定なのではないかと考えられます。原作でも、「魔界歴程」の後半はまだ翻訳されていないことにされていますから、それと同様に展開させるつもりだったのでしょうね。あと、「たのむぞ名投手!」という名台詞も、今回はジャイアンの活躍ではないためカットされ、むしろのび太の射撃テクが生かされたような(これは、のび太が使うのが「ピストル」ではないので少し微妙ですが)展開になっています。ここはジャイアンの活躍の方が好きなのですが、新生ドラ映画としてはまだ2作目だし、のび太が活躍すべきと判断されたのでしょう。同じように2作目となった「のび太の宇宙開拓史」でも、のび太の射撃テクが生かされるラストになっています。映画版の方は拍子抜けするほど呆気ないんですけど(笑)、原作でのギラーミンとの対決は名シーンです。

作品を全体的に見ますと、「ねじまき都市大冒険」より後に作られた映画やその漫画版に感じてしまった、どうしようもない違和感に比べれば、新たなエピソードが加えられていても、十分に藤子テイストを感じることが出来ました。やはり「ドラえもん」って、どうしても藤子先生の掌から抜け出しにくい作品なので、完全なオリジナルは作りづらいのかもしれません。来年は渡辺歩監督がオリジナル作品を作るのだそうですが、果たしてどうなることか…。私としては、そろそろ楠葉総監督ご本人が手がける作品も観てみたいのですが(^^);

なお、今回の記事については、あくまで漫画版の方だけを見て書いてますので、映画版と異なる箇所があるなら、それは全く考慮していないことをご了承ください。

最後に漫画版を描いた岡田康則さんについて…。岡田さんは「のび太と翼の勇者たち」以降、映画の漫画版を描いておられます。「翼の勇者たち」奥付のプロフィールによると、藤子プロへの入社が1997年(平成9年)となっていて、それはF先生が亡くなった翌年です。だからF先生に直接師事したわけでもないと思われますし、もしかすると面識さえないかもしれません。入社から「翼の勇者たち」を描くまでの数年間は、おそらく藤子先生のアシスタントを務めてきた方々のアシスタントをされていたのでしょう。私個人の印象では、岡田さんの絵柄や構成などは、藤子先生にわりと近い雰囲気を持っているのではないかと思います。もちろん完全なコピーなどではありませんが、晩年の藤子先生のタッチに近い雰囲気があった(晩年にチーフを務められていたのですから、当然といえば当然なのですが)萩原伸一さんが手がけていた頃より、岡田さんのタッチの方が個人的には好みです(一応フォローしておきますと、萩原さん=現むぎわらしんたろうさんの絵柄はオリジナル作品の方が好きだったのです。デビュー作「秋風の贈り物」のファンでした)。岡田さんは私とほぼ同世代なので、おそらく藤子ブームの洗礼を受けてこられた人なのでしょう。今回の映画の寺本監督、わさびさんたち声優の方々も含めて、みんな30歳前後です。藤子ブームを子どもとして過ごした世代が、現在「ドラえもん」を作っているというのは、やはりなんだか嬉しく感じてしまいます。

コミック
岡田康則 著 (原作: 藤子・F・不二雄)
ドラえもん映画ストーリー「のび太の新魔界大冒険」
小学館

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