「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・05・03

2005-05-03 06:10:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「ある晩、私は泣いてみた。もうなん十年も泣かないから、泣き方を忘れていはしまいかと、はじめ私は危ぶんで、ひとり声をしのんで泣いてみた。やがて思い出して、高く低く、次第に真に迫って泣いた。」

  (山本夏彦著「毒言独語」所収)



 「私は夜誰もいないはずのわが家に、思い切って電話をかけてみることがある。まっくらな茶の間で、それはながくむなしく高鳴っている。誰か電話口に出やしまいかと息づまるような一瞬である。そして誰も出ないのに安堵してのろのろと帰るのである。」

  (山本夏彦著「不意のことば」所収)
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