今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、再録。
「大卒はふえるばかりだから、短大卒さえ肩身がせまくなった。短大は四年分を二年で学ぶのだから、四年制よりむずかしいのだと言う女の新入社員がいるので、その心中が察しられるのである。こうして短大出は大学出を許さなくなった。また婚礼の披露を一流ホテルでするなんて、昔は並の勤人は考えもしなかった。今は考える。無理をすれば出来るから出来ない家は出来る家を憎むようになる。
以上羨望嫉妬こそ民主主義の基礎である。まなじりを決して、以前は思いもよらなかったことまでねたんで呪って、心の安まる日がないのが我ら中流である。二十万円の月給取は〇十万の医師の収入を許すことが出来なくて、正義を持ちだして、その正義が嫉妬の変身したものだと思わなくなった。それを指摘すると怒るようになった。
〔Ⅰ『やっと中流になったのに』昭55・5・15〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)