「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・05・12

2005-05-12 06:00:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集「茶の間の正義」の中の「テレビは革命の敵である」と題したコラムの中から。

 「革命は近ごろ旗色が悪く、わずかに学生層に支持されている。ソ連や中共の原水爆なら結構で、アメリカのなら結構でないとは、並の人には分らぬ道理で、幹部がこのたぐいをむし返し、もみにもんでいるうちに、下っぱの組合員はうんざりして、テレビの前にすわりこんでしまった。
 二千万に近いテレビなら、労働者の茶の間にもある。妻女は朝から、ご亭主は帰宅してから見物する。
 視聴率の高いのは、物語と野球だそうだ。女はホームドラマ、男はプロレスか野球を見れば、革命とは疎遠になる。
 共産党はもちろん、総評や日教組の一部が、もし革命を志していたのなら、そのあてははずれた。革命が成れば、プロレスやよろめきドラマはなくなるから、今の方がいいと口には出さないまでも、腹で彼らは思っている。
 共産党が十年もこれに気がつかなかったとは迂闊である。年々メーデーがなごやかになるのは、このせいかもしれない。
 学生の多くは下宿屋の住人で、下宿屋にはまだテレビが少ない。だから革命的言論はここに残っているが、それもつかのまである。彼らは卒業すればホワイトカラーになる。なってまっさきに買うのはテレビである。そして、その前にすわりこめば革命なんぞ忘れるだろう。
 革命の是非はしばらくおく。青少年のくせに、何らかの反逆と革新の気概がなく、テレビにうつつをぬかすなら、フヌケである。」

 今は昔、山本夏彦さんがコラムの中でこう書かれてから40年近い歳月がたち、5月1日が「メーデー」であることやその日に行われる関連行事について、新聞の一面に報じられることもなくなりました。現代の多くの若者は、かって「メーデー」が何の記念日であったのかも知りません。
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