ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔忘却からの帰還〕 【人生の賞味期限】 藤本 義一 岩波書店

2011年12月03日 | 〔忘却からの帰還〕
【人生の賞味期限】藤本 義一 岩波書店
    
これは藤本の阪神大震災以後のエッセー集。
いつだったか、藤本がNHKのラジオ講演で父親の金銭哲学を披露したことがあったが、その内容の面白さと語り口の上手さに聞きほれてしまい、それから藤本の作品に注目してきた。

 趣味は人生を豊かにする。
かといって、いろいろ手を広げると、どれも中途半端に終わり、充足感は得られない。
「多趣味は無趣味」になりかねない。と、藤本は言っている。
このことは、定年後にいろいろな趣味に手を広げている先輩たちのその後の生き方とも重ねて考えさせられた。
サラリーマンを満期卒業して、それ以後の第二のステージをどう生きるか、そこに手本はないだろう。

楽しみをむさぼりつくす人生もどうかと思うが、黄昏にまかすという心境もどうか。
藤本は

「無垢を取り戻す時代。生きていく上の正常とはなにかを自分に問い、友人、知人と語り合うべきである。」
「人生の賞味期限は、各自の意識そのものの持ち方で決定するものである。
一度、諦めの意識を抱いてしまうと諦めは深く根を下ろしてしまうものである。容易に自分の手では抜けない厄介な根である。
だから、諦根は植え付けない方がいい。
定年退職の友人たちを見ていると、退職が褪色になっていくのがわかる。
色がさめていくのである。
これは空しいことではないか。」


「これではいけない。
悲しいことだ。
自ら敗北宣言をする愚を選んだことになる。
私は、ずっと自由業である。
が、人間はすべて自由業の意識があっていいのではないかと思う。
一番嫌いな言葉は"仕事"である。
事に仕えるのが人間の真の生き方ではないと思っている。
それよりも"仕己"がいいのではないか。己に忠実に仕える気持ちが第一ではないのか。
人生は蒸留酒ではないのである。
人生に醸造酒の味わいがあって"人生"なのだ。
古酒の賞味期限は永遠なのだと思いながら、自己陶酔するのも悪くないものだ。」


とも言っている。
藤本が映画監督川嶋雄三の付け人になって脚本の手伝いをした体験談も面白い。
この人、駅前シリーズ、悪名シリーズ等も手がけているから、笑いのセンスその後にはますます磨き上げられ、頭角を現していったようだ。
(2002年 秋 読了)


*************
この本を読んでから9年が経ち、定年後もう7年が過ぎた。

「事に仕えるのが人間の真の生き方ではないと思っている。それよりも"仕己"がいいのではないか。己に忠実に仕える気持ちが第一ではないのか。」
この藤本のことばを座右の銘としてやってきた。
定年後の「自由」とは自らに由る生き方と解して、○○のためといった生き方を拒否し、その日々を送っている。
が、未だにもう少し時間があればという不足感のほうが先に立つ。

少なくとも退屈はない、残照の時が送れている。








最新の画像もっと見る

コメントを投稿