ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

【忘却からの帰還】 【坂の上の雲 3 】 司馬遼太郎 文芸春秋

2013年04月08日 | 〔忘却からの帰還〕
【坂の上の雲 3】 司馬遼太郎   文芸春秋

3巻は日露開戦となって、日本陸海軍の足跡を辿っている。
読んでいて少年の日の1頁がよみがえった。
将棋好きな豆腐屋のおじいさんがいた。
凛とした風貌で日露戦争に参戦していたという。
映画で見たアラカンの明治天皇。
本中に随所に出てくるクロパトキンという名前も懐かしい。
それにしても、日露戦争の戦果はまったくの僥倖というよりほかはない。
司馬が言う如く日露の勝利は信長の桶狭間的勝利というのが当を得ている。
物量の戦では、圧倒的に差があったのだ。
遼陽の勝利からロシア軍の反転南下攻勢、旅順をめぐる日本陸軍の不毛な作戦は読んでいても薄氷を踏む想いがした。
この点で、将軍・乃木の描かれ方もきびしい。
陸軍の伝統ともなった補給観念ゼロの体質的欠陥は昭和の戦いにも影響を与え、悪しき汚点を残してゆくという指摘には納得。
一方でプーシキンの詩を漢詩にするロシア社交界に登場する人気の快男児・広瀬忠佐などの描かれ方は騎士道と武士道の交錯で、海軍少将の娘アリアズナが広瀬のために喪に付すなど、今の時代にありえない一種の精神的高貴さが宿る。
1日で陥落するはずの旅順攻略が155日を要し、死傷6万を数える。
危うい戦局の数々に身がすくむ。

巻末を見るとこの本、昭和45年の1刷が5年後には39刷りを重ねている。
日露とは、のテーマのすざまじい人気におどろく。
(2002年 9月3日 読了)


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