詩人・哲学者・蕎麦打ち職人が、食や文化、さらには自然や美・表現について縦横に語り、山里の暮らしから現代の人間の生き方や在り方を問いかける。地産地消のスローフード・スローライフ
北沢正和(長野県在住、蕎麦・創作料理の店「職人館」館主、しなの文化研究所代表)
太田政男(長野県生まれ、大東文化大学教授)
内山節(東京生まれ、群馬県上野村と東京の2重生活の哲学者)
谷川俊太郎(東京都、詩人)
長嶋伸一(横浜市生まれ、長野大学教授)
食・詩・風土再考…。食いしん坊の私は、タイトルで手に取りましたが、この本は実は、哲学書でした。御馳走の話は、ありません。あしからず…。
でも、この本は、人はどう生きるか、についてを感じることが出来ました。
地産地消は、食の生産と消費を同じ時空で行うことであり、人間も地上の生物として野生の動物から教わる、営々と続いてきた当たり前の食し方。
食材を美味しく食べられるようにすることだけが料理じゃない。日常の人とモノとの関係から多様なモノを紡ぎあげて、山里に住む人々が技を出し合って、居心地のいい時空を作り上げる事が、料理の本質ではないか。 ~北沢
人は自分の魂が帰っていきたい場所を求めているのではないか。その場所は変化する世界ではなくて、永遠の営みを感じられる場所。それに対し変化していく世界に対応していくのは人間の理性のほうで、ある意味理性は変化を求めるし、一面では年の方が有利だが、魂の還りたがる場所としては、変化し続ける事が宿命の都市は明らかに不利で、永遠の世界が見えない。
郷土は、変わらないで受け継がれてきた部分と新しいモノを取り入れて変わっていく世界と、両方のバランスの中に生きているような気がする。
人と自然がつくっている営みと変化していく世界。両方の営みの中に人は生きている。
変化を理性が受け入れ、暮らしの循環に溶け込み、いつの間にか魂の帰る世界に近づく。いろんな食材がその土地の食材になるように変わっていくもの ~内山
経済価値(金)と使用価値(物の持つ有用性)…
例えば道ばたのノビル、踏みつけて歩く人には何の有用性もないが、抜いて料理にしてみようかと考えると金額では計り知れない価値がある。
人間もその関係性の中に価値があるので、関係を切ったところに個体としても価値を持っているわけではない。 ~内山
日本の人間観。生まれるときも死ぬときも我一人という歌人主義だが現実に生きる世界では仲間と共に、共同体と共にという(助け合い)、両方が矛盾しないでバランスをとってきたのが日本の精神。
技にこだわるのは、共同体からはみ出した生き方をすることを認証させるため。
戦後まずかったのは、共同体から外れることを、技なしにただの人間の権利にしてしまった。 ~内山
子ども達が自ら開いて、自然やもの、人間同志の関係を取り戻していくことが教育本来の課題。自然を取り戻し、地域産業、モノ造りの復活が大事。また、他の地域との関係。特に都市は都市だけでは生きられない。 ~太田
知識だけでは料理は作れない。食材があって、技があって、食べてくれる人との関係があれば美味しいモノが作れる。
自然との関係も技が必要。図鑑を丸暗記しても技ではない。野の草を見ていろんな草が生えているのを見つけ出す技をつくる過程。
郷土教育も、地域に昔こういうモノがありましたと教わるよりは、地域の祭りで太鼓を叩くとか文化を感じるとか。高齢者に手を貸すとかいうのも技。
今は、その技が「わざとらしい」になって、生活からかけ離れている。
仕事と生活が繋がらず、教育も、学ぶことと生活が関係なく分離している。
多様な関係の中で、地域の生活に、自分がどう関わっていく、関係を取り戻すところに技が必要。
子ども達に民衆的地域的なものを伝えるために大人も含め地域の文化を見直し作り出す努力が必要。
広い世界に出て行くということは薄い世界に出て行くこと。人間も深く評価できないから薄い評価基準になる。学歴など
小さい世界に足場があると個々の人間の評価があって、ローカルな世界と大きな世界との両方のバランスを欠いてはいけない。
きちんと人間が評価される世界を持たずに薄い世界だけ(全国共通試験で何点採るか)だと暴力や問題が出てくる。 ~内山
いつの時代も、自然の恵みを受けて暮らしてきた。農業は続いてきた。手仕事の世界は続いてきた。生活を創る労働は続いてきた。人間は何らかの形で共同性を持ちながら生きてきた。
表現は自由。文章。音楽。絵。料理。自分の考えている思想哲学を表現するには無限の方法があり、自分の手にしている手段でしているだけ。 ~内山
僕らは、目に見えない何かで交流し合っている。時間を共にするうちに縁が生まれ、具体的な計画を思いつくカモしれない。生まれ育った土地の違い、住む風土の違いなど、その他諸々の違いこそが付き合いを面白いモノにするとしたら、その違いを無くす方向には行かないようにしたい。どんな違いがあっても、僕らの頭上の空、太陽、月、星は、多少も見え方の差があるとしても共通だんだから。 ~谷川
「おめえ、そんな言葉や文字だけでは言い現せねえことが、山里の暮らしには山ほどあるんだがな。そのうち解るさ…」沈黙の笑み ~北沢父回想
「表がどんなに立派な着物でも、裏地や襦袢をよく見てみろや。人の目につかないところに、いい物を使わねとだめだからなあ…」 ~北沢母回想