リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

在宅医療と介護の連携と大町市の医療の未来

2011年02月07日 | Weblog
大町市で「NPO法人在宅ケアをささえる診療所・市民全国ネットワーク」が主催する、イベントがあった。
医療や福祉に携わる人や大町市民もたくさん来ていた。

基調講演は黒岩卓夫の「在宅医療と介護の連携ー在宅医療の現代的課題を通して」だった。

黒岩卓夫先生は大町市八坂出身で、ゆきぐに大和総合病院(大和医療福祉センター)をつくり育て若月賞も受賞している医師だ。
これまでに何度かご講演は拝聴したことがある。

他の地域で良さそうな実践があれば、すぐに取り込んでやっていくフットワークの軽さが黒岩流。
地域医療のバイブルの一つ「地域医療冒険」を読めばわかるが、なんでも楽しそうにやっている様子が実に印象的だ。
元祖、トムソーヤ方式だ。
全国的にも「地域医療研究会」や「大町市でNPO法人在宅ケアをささえる診療所・市民全国ネットワーク」の中心として病院間、診療所間のネットワークをつくり政策決定にも提言をおこなっている。

いまは萌気会という民間の団体で二つの診療所を核に、介護福祉施設やケアホーム、ディサービス、宅老所、旅館、入浴施設などを運営している。
来年度からは委託を受けての認定こども園まで開設するそうだ。
地域ニーズをかなえるべく何でもやり手広く活動している。
グループ全体で200人近くの雇用を産み、売り上げは年10億円。すごい・・。

どこでも、これだけのムーブメントを起こせるのはやはり黒岩先生の器だとおもった。

在宅医療(ケア)は不治の病のケアや老いと死への心の救済などにおいて大きな役割を果たすことが期待されており、高度医療、急性期医療以外は何でも出来るが、介護と一緒にやるのが大前提。
在宅医療支援診療所は一日も休み無く365日オンコール。
病院とおなじだ。
問題は開業医にもこの覚悟があるか、ネットワークが組んで協業できるかということ。

2次医療圏の中で、標準的な医療をうける権利を保障するために、在宅シフトと選択と集中がもとめられている時代。
地域の医療再編の中で新潟県内の病院も統廃合で厚生連に移管されたりということもあるようだが、ゆきぐに大和総合病院は市立のままでがんばっている。総合をとってゆきぐに大和病院として、さらなるダウンサイジングを図って行く方向だそうだ。
これも時代を反映している。

また活動の一環として地域医療学校を主催し、学校や病院、地域の中で出前(アウトリーチ)で対話や教育を行っている。
市民一人ひとりのレベルを底上げし、医療を正しく適切に使うようになることも大切。
そうなってくると、まさに一人ひとりが医療資源だという。
そういった活動もまた、医療従事者の大切な仕事だ。

その後、牛越大町市長と大町市民病院の外科の高木先生が大町市の高齢者医療介護の現状と大町病院の現状を報告した。
大町市は日本の平均より先に産業が衰退し人口も減少し、程度こそ違え北海道の夕張市と重なる。

牛越大町市長は政治家にしては医療福祉のことをよく勉強しているし分かっている人かなと感じた。
リアリティがないのは現場の人ではないので仕様がないが・・。
黒岩先生のところにも見学に行ったそうである。

大町病院の高木先生も活動的で、ズバズバものを言う。
でも在宅医療はやってないじゃん・・・。
組織にこういう人は必要だ。高木先生が院長になればいいのにとおもった。っていうかここまでいっていいんかい?
自由な立場からモノを言えなくなるからそれは嫌だそうだが・・。



大町市の衰退、人口減少と少子高齢化と病院の危機はセットで考えなければならないと主張。
住民との対話を重ね、ニーズを把握するとともに、住民に一人ひとりに行政や病院任せではない行動をとるように促している。
病院としても「とりあえず断らない。」ことを目指しているそうである。
そして来年度、第一回の病院際を開催するそうだ。すごい。

もっとも二人の口から10km弱南にあるお隣の安曇総合病院との連携・協業の話しがちっとも出てこないのはちょっと不満である。。
大町市でのシンポジウムだからかもしれないが、ここに安曇病院からの人をいれないのはいかにもバランスが悪いと思った。
専門外だからと断られた救急車を受けたり(それを言うなら、こっちも専門外である。)、夜に体合併症をもつ認知症の患者を救急車で転院搬送されるのを受ける立場としてはね、・・。

お互い様なところもあるし、安曇病院は認知症疾患医療センターだからしかたないのだろうが・・・。

病院間の現場レベルでのコミュニケーションがもっととる必要があるのだろうということでは高木先生や大町病院のケースワーカーとも一致した見解。
さっそく交流を企画することとしよう。

経営母体は違うが同じ地域の医療を支える病院どおし、急性期をどっちがやるかとか、地域医療の補助金や、がん拠点病院をとるかどうかなんて政治で競っていないでどれだけ地域のニーズに応えるか臨床現場で目の前の患者をまじめに、丁寧にみるかということで競えばいいのだと思う。
どっちが急性期でどちらが慢性期か担うかなんていってもしかたがない。実践を見て、それを決めるのは市民だし。
もっともニーズは言い出せば切りがないけど、人口規模的にがん拠点や高度なインターベンションをともなう救急処置(心カテや開頭手etc.)を最期まで緊急対応するのはどちらも難しいと思う。
3次救急は初期診断治療をして松本に搬送することしかできないだろう。

午後は分科会だったが地域ケア総合研究所の武重さんの話しがよかった。

武重さんは、行政組織や、恵仁会など医療介護分野で実践されてきた方だが、今は組織から飛び出し自由な立場から提言をしている。
いろいろ提言があったが地域という言葉の使われ方が曖昧なのが問題だという。

認知症の人をささえるために「地域」は中学校区では大きすぎ、隣組や自治会レベルの地域でないと役に立たない。
猫の死体や水路の石を行政に電話して片付けてくれという態度が、肥大化した行政組織を産んだ。

大きなシステムの話しも良いが、だれがやるんですか?と聞かれたら「私たちがやる。」気づいた人が、やるしかかい。
自治会などでは必ず反対者はでるが、反対者を気を使っている余裕は無い。
最初から行政や銀行を頼らず、まず地域の賛同者が出資して初期投資を抑え、出資型(NPO,株式会社、生活協同組合)で運営し、自給自足に近い形で実践。必要と認められたら行政支援を受ける。

この部分では寄付税制の改革が望まれるな。


専門分野には民間並みに人件費を払うが、生活支援分野は有償ボランティアで、そのかわり自分が支援が必要な状態となったら支えてもらう。定年前後の世代を地域再生のための人材として活用。

乙女平の「おもいやり乙女平」では実際にそういう形でやっているそうだが、非課税の優遇を受けているはずの社会福祉法人(地方も名士が多い)から妨害をうけたりもしているそう。

全国的には「やねだん」が有名で、武重さんも近々見学に行くそうだが、見学費は15000円だそう。(1500円の菓子折りじゃなくて。)それだけとっても見学者があつまるのがすごいなと思う。したたかだが、それも事業の収益になる。行政に頼らないと言うのはそういうことなんだなぁと・・・。

地域再生は大学の先生や官僚がどうこう言うよりも、山間地の限界集落や、高齢化が一気に進む都市部の団地などの実践から始まる。そしてそういうところから学ぶしかないという。

全国各地でそういう動きが巻き起こっている。

変革は、弱いところ、小さいところ、遠いところから
清水 義晴,小山 直
太郎次郎社



最新の画像もっと見る

コメントを投稿