リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
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臨床研修指導医講習会

2012年11月17日 | Weblog
知り合いの先生から声がかかり、長野県病院協会と医師会の共催する臨床研修指導医講習会のワークショップのファシリテーターとして参加することになった。
どっちかというとパシリテーターですが・・。

週末の2日がまるまる潰れてへろへろでした。
しかし他の病院の先生方と知りあえたり懐かしい大学の同期やかつていた病院の先生ともあえたのは良かったです。



ワークショップ形式の講習会でアイスブレーキングから始まり、成人学習理論に基づくカリキュラムを作ったり、院内体制の立ち上げや、医療面接、告知のロールプレイをしたり、医療安全やメンタルヘルスなどの講義やグループワークがあったり盛りだくさん。

その内の1つとしてチーフタスクフォースから認知症のケアカンファレンスのロールプレイのシナリオを作れとの指令が・・。

よくわからなかったが、大学病院の先生なども参加するワークショップなので多職種協働とケア会議の重要性をを示せればということで現実のケースをいくつか組み合わせてつくってみたのが以下のシナリオ。ついでに認知症や在宅医療への理解が深まればということで・・・。

まず、山手線ゲーム的に医療に関わる多職種を一人一つずつ言ってもらいました。政治家とか、MRとか、行政の福祉課の職員などが出てくるのはさすが・・・。

ついで模擬カンファレンス。地域では多職種で実際のケースをもとにケア会議をする機会なんていっぱいありますが・・・。

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認知症をもつ方の在宅支援のためのケア・カンファレンス シナリオ

【患者背景】 82歳 女性。(春野ウメさん(仮名))
[本人の情報(入院前)] 要介護1 J2-ⅡA
<サービス利用状況> 訪問看護を週1回のみ利用
<既往歴> 特筆すべき既往はなし。糖尿病、高血圧が最近みつかった。
<経済状況>地方都の町の旧市街地の町中の古い小さな持ち家に年金での生活。
[家族の状況・居住状況・生活状況]
10年前に夫と死別、以後独居。畑にでかけたり、俳句などの集まりに出かけていた。年金は自分で管理し、買い物は近くの商店への自分で行っていたが最近は家にこもりがちであった。息子家族は車で15分くらいのところにおり、嫁も働いており週1度くらい訪問して世話をしている。娘は車で40分程度のとなり町に嫁に行ったが月に2度程度、買い物や温泉入浴施設などにつれていくなどの関わりをしていた。
【生活史】3人兄妹の2番目、次女として出生生育。兄妹はすでに他界。中学卒後、工場で働く。25歳で町役場の職員の夫と結婚。1男1女を育てた。10年前に夫が他界。以後は独居。
【現病歴】気ままな性格。医者嫌いでほとんど病院にかかったことはない。X-2年春頃より物忘れが増え、あまり外出しなくなった。身なりに構わなくなり嫁に対して家の物を持っていったなどの発言もあり、訪問販売でだまされかけたこともあった。またお菓子など甘いものを食べることが増えた。X年3月に元気がない様子があり娘がA病院になんとかつれていったところ糖尿病と側頭葉に小さな脳梗塞がみつかり精査と血糖コントロールのために入院となった。しかし混乱が激しく怒り入院継続できず結局数日で自宅に退院。通院も拒否するため訪問診療もしているクリニックより訪問でのフォローを開始した。当初は拒否的であったが慣れてくると「ありがたいね。」と喜んで迎えてくれるようになった。訪問看護も入り内服薬は服薬カレンダーで管理していたが、半分くらいしか服薬できていなかった。お風呂もあまり入なくなりご飯は自分で炊いていたが嫁がもってきたおかずを食べるなどして生活していたが冷蔵庫の中で腐らせたりした。しかしディサービスやホームヘルパーの利用は拒否的であり、嫁にたびたび電話して理由なく怒り「ダメな嫁だ。」と辛くあたった。X年8月に訪問看護師が訪問時、暑い部屋でぐったりしており発熱もあり訪問したクリニックの医師の判断でA病院に救急車で来院。著明な脱水と尿路感染症あり補液と抗生剤の点滴で治療をおこなった。徐々に食事も食べられるようになったがスタッフにも依存的で臥床がちでありリハセラピストの働きかけにも拒否的であった。HDS-R(長谷川式簡易知能スケール改訂版)は18/30で時間の見当識障害と短期記銘障害あり、頭部CTでは海馬と側頭葉の萎縮が目立ちアルツハイマー型認知症も併存していると診断された。血糖はエネルギーコントロール食と経口血糖降下薬のみでコントロールがつき、入院約1ヶ月で屋内歩行とベッド周囲での動作は自立し退院も考えられるようになったのでX年9月、ケア会議を開催することになった。今後1~2年間でさらに認知症の進行が予想され、このままでは自宅での生活継続が厳しくなる状況であることが予想される。


役はくじでランダムに決定。①~⑥の人のみに設定を配布。

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ケアカンファレンス1回目のロールプレイの設定

①【指導医】
患者さんは退院可能であるとだけ伝え、基本的に研修医にケア会議を任せる。「あとはケースワーカーとケアマネさんにまかせて。」といい退院後の生活にあまり関心がない。「うちは急性期病院だから。」と長期入院になるのを嫌がる。
②【研修医】
入院中、担当医として指導医とともに治療にあたった。指導医から多職種のカンファレンスを開催するように言われた。本人の状況とお嫁さんと話から自宅での生活は不可能であると考え、病状説明の後、家族の意向を聞き施設入所の方向で話を進める。
③【ケースワーカー】
家族の意向を聞き特別養護老人ホームは待機者が多くすぐには入れないので、老人保健施設を経由して民間のグループホームを申し込んではどうかと提案する。
(老人保健施設:リハビリ機能と多少の程度の医療機能を備えた中間施設、在宅準備のための入所とショートスティとディケアの機能がある。本来、在宅生活の支援施設だが、特養(入所施設)への中間施設となっていることもある。)

家族
④【嫁】
頻繁に絡んできて妄想もある義母の介護につかれ施設への入所を強く希望している。できれば、それまで病院に入院させて欲しいと訴える。「もう家では絶対に無理です」と何度もいう。
⑤【息子】
自分としては自分の家での同居をすすめたい気持ちもあるが、本人は拒否しており、嫁も同居を快くおもわず、自分は仕事であまり関われていないこともあり、施設入所もしかたがないと考えている。

⑥【ケアマネージャー】
カンファレンスの流れで、施設へ退院方向となり複数の施設を申し込む段取りを家族とおこなうことになる。

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全体ディスカッション。わりと活発に意見が出た。
役割を増やして再ロールプレイ。

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ケアカンファレンス2回目のロールプレイの設定

⑦【ケースワーカー】ケア会議を企画し司会を行う。ひと通り自己紹介してから、研修医へふる。今後、介護サービスをより利用するために介護保険の区分変更の必要性を指摘する。話の流れが止まればまだ話していない人に話をふる。
⑧【研修医】指導医の見守りのもと、ケア会議へ参加する。病状と予後を説明する。患者との信頼関係はそれなりにできており、患者から「先生、うちに来とくれや」と言われている。
⑨【指導医】主介護者の嫁をねぎらう。研修医や家族、どの職種からも情報や意見を引き出してまとめる。
⑩【病棟看護師】
病棟ではトイレで迷うようなこともあったが、食事はエネルギーコントロール食をホールでとれていて夜は安眠できていること。薬は1日1回にして毎回手渡しをしているが拒否なく飲んでいること、血糖値は100台で安定していることを伝える。
⑪【リハビリのスタッフ(今回は代表して理学療法士)】
歩行は自立しているがまだ耐久性が低くふらつきがあり、転倒の危険性があることを伝え、家屋訪問した結果、住宅を一部改修し、ベッドをレンタルで入れて夜間はポータブルトイレを使うほうがよいと考えている。時にリハビリをしたことを忘れたりしていることがあると伝える。
【家族】
(本人)家での生活を続けたいが、心細く、息子夫婦が今の家にきて同居して欲しいと思っている。(嫁のせいで息子が同居してくれないと思っている?)カンファ直前で出席拒否。
⑫(嫁)可能な限り世話をしているが、姑に頻繁に絡まれ妄想の対象にもなり疲れ気味。義母の介護につかれ施設への入所を強く希望している。できれば、それまで病院に入院させて欲しいと訴える。「絶対に無理です」と何度もいう。
(息子)自分の家に同居をすすめたい気持ちもあるが、本人も拒否しており、嫁も快く思わず、自分はあまり関われていないこともあり施設入所もしかたがないと考えている。仕事のため今回は参加できず。
⑬(娘)家族が協力し支援を増やすことで、家での生活が続けられないかと願っている。
⑭【ケアマネージャー】
将来的には同居やグループホームなどの利用の可能性も考えつつも、治療食の配食サービスや、新たに町内にできた小規模多機能事業所(訪問介護、通所介護、宿泊をすべて行う。定員25人で要介護度ごとの定額制)を使えば自宅での暮らしを継続できるかしれないという腹案もある。
⑮【訪問看護師】
本人が普段から寂しい思いをしているのを知っており、なじみの人が上手に誘えばディサービスなども利用できるのではないかと思っている。本人へ支援がはいることで家族の負荷が減れば、逆に家族も余裕がでてかかわれるようになるのではないかと考えている。
⑯【訪問診療をおこなっているクリニック医師】
多職種と連携して定期的な訪問診療と緊急往診、24時間の対応をおこなっている。時々、研修医も受け入れている。研修医に訪問の同行見学をすすめる。

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ディスカッション後、ミニレクチャー。
半数弱の参加者は多職種カンファレンスを普段から経験、半数はほぼ初体験のようでした。
数年前は「ケアマネ何それ?」という指導医もいたようですが、介護保険制度も成熟してきたためか、田舎の病院の医師が多かったせいかわりと慣れた感じでした。

まぁまぁ初期の目的は達成できたかな~。

ケア会議の技術
野中 猛,上原 久,高室 成幸
中央法規出版

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