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精神科医師のブログ。
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「職場を襲う”新型うつ”」いや、「職場でふえる”適応障害”」でしょ。(^_^;)

2012年04月30日 | Weblog
NHKスペシャル「職場を襲う”新型うつ”」
最近、NHKの精神医療を特集した番組の内容がひどいので一応見ておきました。患者さんにも聞かれるしね。
以前の、「ここまで来たうつ病治療」やはり残念な番組でしたし。
一般視聴者を対象にしていてなおかつ限られた時間内に十分に掘り下げることもできない、いわゆる「テレビ番組の特集レベル」だからしょうがないとえばしょうがないのですが・・。
内容やまとめ方はは否定するほどものではないのですが、期待通り?、ツッコミどころや、勘違いしやすい点が多かったので一応指摘しておきます。
だいたい「新型うつ」が職場を「襲う」ってなんでしょうか。奇病でもはやっているというのでしょうか(^_^;)。
そして支援は必要な場合もあるのでしょうが、あえて「うつ」って言わなくてもいいと思うけど、というのが最大のツッコミどころです。


<では番組の再現をば>

・・・
広がる「新型うつ」、「現代型うつ」とも呼ばれている。
理由もわからないままに突然休む、復職しても再発を繰り替えす。
従来型のうつ病と症状は同じ!?ですが、薬が効きにくい。
自責に乏しく、他責的であり、休業中なのに遊びに行ってしまっったりする。
生き方と症状の区別があいまいで、治りにくい。
上司など相手を責めたり仕事以外では活動的な面もあるため周囲からは甘えや怠けと見られがち。
そのことが患者を追い詰めている。
NHKが上場企業2200社に行ったアンケートでは65%に新型うつの社員がいるとの回答。(定義がないのに)
何故増えているのか、甘えか病気か、苦悩する現場を見つめました・・・。

新入社員に自衛隊の設備を借りた軍隊式教育、家庭訪問して乱れた生活習慣を母親同席で指導。休業中は病気を治すことに専念することという就業規則の改定・・・。

企業の人事担当者の匿名座談会・・。

療養休暇中なのに、マラソン大会に出たり、つくっている食事を毎日ブログにアップしたり。
でも会社にでると「うつ状態」がでてしう。
「共通する特徴みたいなのがありますか?」という質問で。
ないんじゃないですかね。あれば採用で落としますから。
・・・・

精神科、徳永雄一郎医師。
「怠けに見えるかもしれないけど症状に波がありますので・・・。
強い抑うつ感があったり集中力が出なくて仕事ができないというつらい状況であるので、
会社も家族も我々(医療者)も「うつ病」という認識をもってしっかり皆で支えながら治療していくことが一番大事ではないか。」

実録ドラマ)

上司の前田に叱責された若手社員、今井。
「オレ、こんなに頑張っているのに、前田のやつ、バカにしやがって・・。あの言い方はひどい。」
医療機関ににかかり、医師に「うつ病」です(誤診だが)といわれ、「ですよね~。」
「うつ病になるまで苦しんだんだから、もう休んでいいんだ。気分転換にグアムいっちゃいますか!」
そして「うつ病と闘うブログ」を開設。「俺をうつ病に追い込んだ鬼畜上司M田・・・。」とアップ。
その反応にみんな皆俺の味方なんだ、俺は間違っていない・・。

一方上司前田も悩む。
「悩んでいるなら相談に乗る」とメールし、一人欠員した部署の他の部下からも「今の作業量でいっぱいいっぱいですよ。」と言われ、「うちのチームギリギリが大変なんですよ。」と本部に増員をもとめるが断られ・・。

一方で今井さんは「ライブに飲み会w・・仮病乙・・・」、そのブログがネットで炎上して、上司にも見つかり・・・。
「これ以上会社を中傷すると解雇もありうるから・・。」との宣告をうける。




ここでまず言っておきたいのは、「新型うつ」というのは、1つの疾病として定まったこともなく、定義も定まっていないバズワード(※一見専門用語のように見えるがそうではない、明確な合意や定義のない用語のことである)であるということです。
ですので「新型うつ」「現代型うつ」という診断名は存在しない、ってことは前提としてきちんと触れてほしいと思いました。
メディアも「新型うつ」や「現代型うつ」を「うつ病」と言わないで欲しいし、どうしても言うというのなら、せめて「いわゆる新型うつ」といって欲しいと思います。

ます「うつ」「抑うつ状態」と「うつ病」をごっちゃにしていることが問題です。
抑うつ状態は状態像(発熱、咳、などの症状と同様。精神科の状態像には他に幻覚妄想状態、躁状態などがある。)であり、不安や焦りはつのるもの、体は動かなくなり、気分は落ち込みがつづく状態のことです。
単なる「うつ」には明確な定義がありませんが(だからこの言葉を使う)、「うつ病」は内因性の生物学的要因が想定される一群の疾患です。
抑うつ状態をきたす疾患は、うつ病以外にもたくさんあり、精神科医はまず状態像を診断をしてから診断を考えます。
適応障害も、気分変調症も、双極性障害も、パーソナリティ障害や統合失調症でも老化でも癌でも慢性腎不全でも中途障害でも認知症でも抑うつ状態をきします。
日本うつ病学会の資料でも『「新型うつ病」という専門用語はありません。その概念すら学術誌や学会などで検討されたものではありません。』と述べています。
専門家の中では、このあたりの言葉をきちんと使いわけようよと議論されています。
抑うつ状態がつづいてうつ病になることは確かにありますが、うつ病の本態はエネルギー水準の低下、制止です。
そもそも「うつ病」の人は休めといっても自分からはなかなか休もうとしません。
再現映像の人はDSM4TRの基準の「大うつ病エピソード」すらも満たしていません。
よってどう考えても「うつ病」とは診断されません。(再現映像に出てくる医師は誤診だと思う)。
せいぜい、抑うつ状態、適応障害、背景に自己愛性パーソナリティ障害の疑い、職場の環境?・・・くらいかなとおもいます。

インタビューで出てきた徳永雄一郎医師は精神科医らしいですが「うつ病という認識をもって・・」とか言ってしまって大丈夫かな?

番組に出演していた斎藤環先生も、自著でうつ病を一言でいうと「動けなくなる病気」っていっていましたよね。(;´Д`)
前のNHKの番組では光トポグラフィが診断に有効ってプッシュしまくっていたならそれ使えばいいのではと思いますが、どうしてそれには触れないのでしょう・・・NHKよ。(^_^;)。
「新型うつ病」のような一群の人がいるのは確かですが、現在の標準的な診断基準をもちいるのなら、「適応障害」、それがパーソナリティとも関連して抑うつが慢性的に続くならせいぜい「気分変調症(ディスサイミア)」くらいが適当だと思います。
ちなみに「適応障害」とは簡単に言うと明確なストレス因子で具合が悪くなり、それから離れると良くなるという環境に適応できない状態のことです。
中には「甘え」や「仮病」の人もいると思います。

厳しい社会情勢の中、ブラック企業で、人を育てるという文化が失われパワハラが蔓延するような職場環境やメンタルヘルス体制にも問題があるかもしれないし(いわゆる職場結合性うつ)、一方で、適応していた人が病気によりDysfunctionになったというより、そもそもLowfunctionだったということもあるでしょう。(いわゆる未熟型うつ)

番組の再現映像に出ていた人をみると、背景に職場側にはギリギリの人員でやっておりじっくりと育てられない職場環境の厳しさが、当人側には発達特性やパーソナリティ障害(対人関係のパターンで本人または周囲が悩むもの)の要素はあり、そういったことを診たてて産業医とも協力して労働環境、メンタルヘルス体制の再考や、スキルの付与など支援は必要だとは思います。
(そういう意味で、いわゆる「新型うつ」も精神医療の対象になりうるとは思います。)


座談会パート。「近頃の若者は」・・という論調。ジャーナリストの江川紹子氏が仕切ります。

斎藤環氏他・・
一生懸命頑張っても報われない、製造業などが減り、サービス業などコミュニケーションスキルなど求められる職場が増え適応のあり方が複雑化している社会構造の変化。
社会の変化に適応できないことが「新型うつ」が増えている背景にある。

教育評論家の尾木さん。
教育改革による新学力観、得点能力よりも関心や意欲に態度対して評価されることにより、若者の考え方や行動が変化。他者との比較ばかりになり、他者を異様に気にするようになり自己肯定感が育たず些細な事に傷ついていしまう。親子関係の問題があるという指摘もある。

若手の参加者。
若者だけコミュニケーション能力がないように見えるといって、上が歩み寄ってこないのは違うかな。


実録ドラマの続き)

前田さん。「昔は上司に怒られて凹んで、でも居酒屋に連れて行ってもらって・・・。そこで教わった。一緒に客に喜ぶ顔をみようって・・。」
他の部下。「いまはないですもんね、そういうの。」
・・・
ブログが炎上し今井は会社からは解雇通告。
心配したまわりがオフ会を開いてくれた。
オフ会に参加したメンタルクリニックにつとめる心理士(上司前田が相談に行ったクリニックにいた。オフ会は実はこの心理士が企画。)が指摘する。
「現代型うつを発症する大きな原因は精神的な幼さです。思い込みにとらわれて物事の全体がわからなくなってしまう。誰が悪いわけではない。今井さんにかけていたのは対人関係のスキルや打たれ強さ。一方会社では今の不況では昔のように十分な社員教育がおこなわれない。会社には今井さんを育てる体制や理解がかけていた。・・・」

ガビーン!!!(;´Д`)


カウンセラーも医者もお金を払えば話をきいてくれる。
本当に価値をもっているのはコストと無関係に親密な会話ができる仲間や同僚。いわゆる「人薬」
全員が手に入れられるかは限らない。

仕事を通してうつ病からの回復をサポートしようという企業がある。
一人ひとりにあった仕事を探しだせば、うつ病のひとでも戦力なると考え積極的に雇用している。
定期的にうつ病の社員の配属先が話し合われる。

番組に出てきた「うつ病」+「アスペルガー症候群」。
人間関係を気づくのは苦手だが、集中力は高いと評価される男性。
以前の会社でうつ病を発症したが、自分のペースで仕事が出来るようになり、営業マンの労務管理を自動的に行うプログラムの開発をおこなっている。
一人一人全部違ったら一人ひとりのために違った仕事を作っていかなくてはいけない。ものすごい労力だが企業も個人に合わせていくことが大事だと思う。と職場の上司。

「うつにならない社会を~職場の社会もかわらなければ」・・という論調の座談会パート。

斎藤環氏
「自尊心や自己肯定感を職場から得られる。仕事も薬になる。
一方的なコミュニケーションで無理な成長を押し付けられるよりは、その人にハンディ似あわせた職場を用意してあげたほうが結局能力も活かせ、効率もあがる。」

他の出演者
「成長志向ではなく、安定した場所で仲間たちと生きていきたい。無理をせず、ストレスをそんなに感じず、そこそこ働きたいという人のニーズにも答えられる社会に。一般職のようなものを男性にも女性にも解放していければ・・・。」と主張する男性。
「理不尽なことをなくしていく」というのがいいことだと思っていたが「理不尽なことを排除してきたことがよかったかな。」と思う。


日本企業も。コア業務だけを日本にのこして一般製造業などは海外展開などという流れだと、オーバーアチーブできない一般の人には厳しい世の中です。
そして、即、戦力にならない人を長い目で育ててくれたり、もしもの時のために居場所をつくっておいておいてくれる余裕が会社にもなくなっているんでしょうね。

かつてたくさんの雇用を吸収していた製造業、自営業、農林水産業で働ける人のパイは極端に縮小しているし・・。
コミュニケーション能力がもとめられる感情労働である、第3次産業のサービス業、対人援助職しか残っていない。いわゆる職人的な仕事というのがどんどんなくなっています。

不況で、焦らせずに、しっくり育てられる余裕もなくなり、ゆっくりと育て、マイペースで仕事できる環境ならば、「うつ(というか適応障害)」にならずにすんだかも知れない人たちが適応できなくなっているということ・・。
昔は社会のどこかに居場所をみつけられた発達特性の人も、居場所が見つけられず障害状態を呈するする人がふえています。
発達障害というのは社会適応できていれば診断しない。社会の側の問題もあるのです。
今の社会、一見選択肢はたくさんあるように見えるけど支援は少なく、長い目で見て丁寧に育ててくれ、「お前はそのくらいだよ」と言ってくれる存在は少なくなりました。

一方で「第2新卒」などという言葉をつくり、「私の年収低すぎ?今すぐチェック」と宣伝してビジネスを広げる就活業界の誘導のまま、どこかに本当の天職というものがあるはずと転職を繰り返します。
そして自己肯定感は得られず、等身大の自己を受け入れれず、スキルは身につけ損ない、自己愛だけが肥大化する・・。
悲劇です。



実録ドラマでは、職場に復職した今井。

「ありがとう、まっていたよ。これからはもっとコミュニケーションをとって一緒に成長していけたらと思って・・」という上司前田。

「前田さんの言葉をきいて少し気持ちが楽になった。」
「まだ注意されてむかつくこともあるけど相手の言葉を聴くように心がけている。」
「だから上の人達にもお願いしたい、甘えやだらけだと決めつけずにきちんと向きあって欲しい。よろしく」

・・・・でエンディングロールが流れて終了。



悪者をつくるのが得意なジャーナリズムで、いつものように精神医療の批判になるのかとおもいましたが、今回はそういう方向にはなりませんでした。
でも、うつになっても傷病手当金や療休を得られる大手企業や公務員と派遣社員では全く違うなど格差がある。経済的支援や復職支援が受けられるというのはそれだけでも溜めがあるということ・・。
是非、このへんともからめて深めて欲しかった・・。
若者の側の発達障害、パーソナリティ障害、社会や職場側のメンタルヘルスや労働環境、コミュニケーションの問題、そしてその間に生まれる適応障害の話として扱ってくれるなら全然問題なかったんだけどね。

結局「無縁社会」とかのようにNHKが新しいいバズワードを広めようとしているだけのように思えてしまいます。
タイトルも「職場で増える”適応障害”」ならなんにも文句はなかったのにね・・。
NHKは自らの影響力の大きさに自覚的になってほしいものです。

以下のような、2chの書きコミの方が秀逸ですね。

会社:労基守れよ
新型うつ:ただの甘え。小学生かオメーは。
やぶ精神科医:病人創出活動乙

1.病気ではない「新型うつ」を連呼し、病気である「うつ病」を甘えであると認識させる。
2.NHKは、何らかの意図で「うつ病」に対するイメージを混乱させようとしている。
まとめ:クソ番組を作ったNHKはクソ



いわゆる「新型うつ病」とは何か?神庭先生の講演会。

擬態うつ病/新型うつ病―実例からみる対応法
林 公一
保健同人社


「新型うつ病」のデタラメ (新潮新書)
中嶋 聡
新潮社


マジメすぎて、苦しい人たち―私も、適応障害かもしれない…
松崎 博光
WAVE出版

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