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精神科医師のブログ。
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同じ認知症という病気を見ていても・・。(脳外科、精神科、神経内科からみた認知症)

2012年04月05日 | Weblog
ヤンセンファーマと武田薬品が共同販売しているレミニール(ガランタミン)の発売一周年講演会が松本で開催されました。

演者はいづれも地元の病院の先生方で、脳神経外科からみた認知症(一ノ瀬脳神経外科、一ノ瀬良樹先生)、精神科からみた認知症(安曇総合病院精神科 村田志保先生)、信州大学の神経内科の池田修一教授の講演(「認知症治療薬の使い方、私はこうしている。」)の三本立てという趣向が良かったのか地域の開業医、精神科医、神経内科医など多数の参加者がありました。




遅れて参加したので全ては聞けなかったのですが、脳神経外科の一ノ瀬良樹先生(一ノ瀬脳神経外科)は正常圧水頭症や、血管手術で改善した脳血管性認知症などの治療可能な認知症の話題が主でした。
さらに脳卒中や脳血管性認知症(VaD)などを,危険因子から病態の発症,進展まで,加齢に伴う一連の脳・血管の変化「血管性認知機能障害(vascular cognitive impairment:VCI)」として捉え、それにどう介入するかという話、また拡散テンソル画像が有用かもという話でした。

精神科からは安曇総合病院の村田志保副院長が、認知症診療において地域で多様な機能を果たしている認知症疾患センターの取り組みついて講演でした。
2011年のアリセプトの売上が1442億円なのに対して認知症疾患医療センターの予算は全国で7億5000万円しかなく手あげをする施設も少ないという指摘していました。
豊富なデーターや実例を紹介しながら、中核症状が進行する時期にBPSDがでて、本人も家族もぎりぎりの状態となって精神科は関わることが多いけれども、より早くから診断し有効な介入ができないか、また終末期の看取り至るまで地域でトータルでどのようにみていけるかという問題提起がありました。
また、「診断した限りは最期まで付き合う覚悟が必要。」「(認知症治療薬の)やめ時についても議論が必要」、「認知症は定義からして社会的生活が困難になった状態、どこまで寄り添えるかが問われている」と訴えました。

座長の精神神経科天野直二教授からは、「老年期の精神科には看取りまで見据えた内科的素養が要求されるがそれにどう応えられるか?」というようなコメントもありました。
認知症は内科医がきちんと見るべきという洪英在先生(長寿医療研究センター)の意見とも重なりますね。

メインの池田修一教授の講演はタイトルのような認知薬の使い方についてのは話はあまり無く、病理学から病因論に迫る最新の知見やアミロイド研究の歴史、FDG-PETによるイメージングの研究などの話が主でした。
最近のアルツハイマー病の原因としてのアミロイドベーターオリゴマー仮説や、アミロイドβ(老人斑、アミロイドアンギオパチー)やタウ蛋白(神経原性変化)、αシヌクレイン(レビー小体)可溶型から非可溶型に変化する何らかのメカニズムが働き、これらの変化は脳内を神経細胞をつたって伝播していく、そのどれがドミナントかにより認知症のタイプが決まるといったような話は興味深い内容でした。
認知機能の低下のずっと前にβアミロイドの蓄積などの変化はおこっておりMCIレベルからの認知症治療薬を使っていくのがいいかもしれないという話がありました。
それに対して座長の精神神経科天野直二教授は「それよりももっと早く(予防的に)投薬するというラディカルな考えもある。」ということを述べていました。
製薬会社は喜ぶでしょうが、臨床的に、医療経済的にさすがにどうかと思いましたが・・・。

いろんな立場からの講演で、おなじ認知症という疾患を相手にしていても科によってのスタンスの違いが見事に別れていて興味深かったです。

新しい薬が登場して認知症に対して4つの薬が使えるようになりましたが認知症診療はかわるのでしょうか?

認知症という病気に対して同じ医師でも見ているものが違うということ、そしてバイオメディカルからサイコソーシャルまでバランスよく見るのはつくづく難しいなと再度認識させられました。

認知症の新薬と疾病の売り込み(ディジーズ・モンガリング)