リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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カモシカ学習会@大町病院

2012年04月27日 | Weblog
市立大町総合病院で開催された第24回「カモシカ学習会」に誘われて参加。
このブログを読んでくれていた大町病院の医師がさそってくれた。
大町病院内にもけっこうこのブログを読んでくれている方が多くてびっくりした。
安曇総合病院の動向も関心をもってみていただいているようだ。

大町病院では2年前から毎月、医療、経営、地域などのテーマで職員勉強会を開催しているそうだ。
今回の参加者は大町病院の職員約100人程度であり、危機感が共有されているのか皆わりと真剣に聞いている印象を受けた。



今回の、テーマは「大北地域における受療動向調査の結果から見えたもの」
講師は大町病院で総合診療外来もされている信州大学地域医療推進講座 准教授 中澤勇一先生。
中澤先生は、もともと外科医であったが縁あって3年前に地域医療推進学講座に行くことになった先生だ。

先生には以前、このブログを見ていただいき、安曇病院に足を運んでいただいてお話をいただいた。
そしてこの7月18日には信州大学で地域医療に興味のある学生を相手にお話をさせてもらうことになった。
仕組みやつながりをゆっくりではあるが着実つくり育て前進し成果をあげている。

まず選挙人名簿からランダムサンプリングした大北地域の住人1000人の調査の結果の公表。

・・・調査に金かけているな。
医療依存度もさまざまな住民の意見であり救急ニーズ、障がい者ニーズ、高齢者ニーズが拾えずイメージ重視になる危険性はあるが、一定の意味はある調査ではあるだろう。


住民が不自由を感じているのは脳外科との意見が多い。
南部と北部で地域外への受療依存度、意識には明らかな違いがある。
大北地区での完結を望むのは6割。
特に大町市民は約7割と他の市町村より多かった。


大北地域の中心都市としてのプライドもあるのだと思う。
大町市も黒部ダム建設や工場などもあり元気で、地域の立派な総合病院であった時代の名残でもあろう。
池田松川と大町市、さらに北の白馬小谷では松本までの距離感がぜんぜん違うのは実感する。
しかし大北医療圏での医療完結は無理と冷静に見ている方も3~4割はいるということだ。




「医療はすべからく地域医療であるべきで、地域を抜きにした医療はありえない。」
佐久病院の若月俊一先生のこの言葉を知ったのが地域医療推進学講座にきて3年の成果とのこと。

信州大学医学部の学生は長野県出身者は3割、そしてなんと父母会があるそうだ!
そこで聞いても医師不足を感じている人は皆無だったそうで、隣の街の医師不足などのことでもなかなか実感できないようだ。
医師不足は絶対的医師不足、相対的医師不足がある。
地理的偏在、診療科偏在、専門細分化、女性医師の増加など複雑な構造的な問題が原因となっている。
医師不足の大きな原因は細分化、医療需要の増大。需要に供給が追いつかない。
どの科もそれぞれに大変である。
そして医師数を人口で割ったところで実際にどうかということはなかなか言えない。

個々の医師のスタンスやパフォーマンスもまちまちであるし・・・。
専門科はなんであれ、目の前の患者さんにニーズがあればとりあえず何とかしようとするという態度の医師が増えないと・・。


医師が増えても地理的偏在は必ずしも解消されない。大学の医師派遣機能も低下している。
専門医の配置、集約化の説明責任はどこにあるのか?県なのか?市町村なのか?地域の中核病院なのか?大学医局なのか?きちんと説明がなされるべきではあるが、必ずしも明示されない。
偏在の原因は患者のフリーアクセスと医師の自由裁量権である。
免許更新や開業制限、勤務医配置管理などの規制的政策は必要なのかもしれないが現実的には困難である。

医師の地域への意識が不十分であった。
それは、これまで卒前、卒後教育で地域というものを見せて来なかったことにも原因がある。
卒然、卒後教育で地域を見せることは地域に医者をよぶ一定の意義はある。
地域医療粋進学講座の役割であろう。

地域への思いをどう育てるか。
信州大学でも2年後から地域医療実習が必修となる。
大北でも医学生の実習を受け入れられる体制を作りたいとのこと。
1~2週間、グループでまとまって泊り、病院や診療所などあちこちのフィールドに散らばって実習をして戻って話し合うようなプログラム。学生、全体での発表会も出来ればと・・。

地理的偏在への対策として実は地域枠の定員は全国の大学でどんどん増えている。
信州大学は15名。地域枠はセンター試験の点数のみで決めている。
熱意のある人もいるが、動機として奨学金や比較的入りやすいからというのも多い。
地域枠の学生を、卒前、卒後でどう育てていくかも課題だ。
地域枠の学生が卒業するまでにその体制をつくることが急がれる。

地域の医師は地域で育てるのが理想。
診療所総合医と病院総合医の養成が地域医療再生の突破口である。
専門医とともに明確な総合医の要請を目指す。
マンパワーの確保の鍵は教育力。
大町総合病院でも養成プログラムをつくったが、指導者は・・?

また、高校生に医療現場を見せる活動をしている。
どの病院も一生懸命説明してくれる。
たとえ医療者にならなくても、そういうことを感じてもらうことが大事だという。


私も医学生の時に北海道内をはじめ、あちこちの診療所や病院に行かせてもらった。
また研修病院を探しに大学病院、民医連や厚生連、徳洲会・・など全国の病院を見せてもらたった。
医療のネットワークや役割がおぼろげながらにつかめたのは大きかったと思う。
さらに佐久病院では、診療所からICUまで地域の保健医療福祉のさまざまなフィールドで研修をさせてもらった。地域への愛ということに関しては、自分の対象とする患者、人たちに、シンパシーをどうもつか?ということが原点なのでは。
若月俊一先生は農村医科大学では医学生を農家に下宿させるというような案ももっていた。


大北地域の地域医療再生に関しては、フルセットの医療は必ずしも必要ない。
松本地域に高度医療、救急を依存することを前提とする。
感情論的に快く思わない人もいるが、安曇総合病院とのネットワークは本当に組めないのか?
病院間の協力、連携、分担。何が出来て何が出来ないかまず方向性を明らかに出来ないか。
医療を学び、守る活動。住民は医療の当事者、権利と責任がある。
病院を中心にした街づくり。
診療は総合診療科がカギ。

‎6月4日には市立大町総合病院で諏訪中央病院で屋根瓦方式の総合診療部を作った佐藤大悟先生の講演もあるそうだ。

「天寿を全うするは人の本分を尽くすものなり」福沢諭吉。
「人はその長所のみとらば可なり。短所を知るを要せず」荻生徂徠。

大町市は駅周辺に市街地がコンパクトにまとまっており車のない住民でも暮らしやすいだろう。
弱者に注目して中心市街地にケア付き住宅や障がい者の就労の場を増やすなど、医療福祉を展開していけば暮らしやすいいい街になるだろう。(雪のことはあるが)
福祉のまちづくりができる可能性は大きい。


アフターの飲み会にも参加させていただき、大町病院の医師や幹部、事務方とも話ができた。
大町病院には議会の対応など、公立病院ならではの苦労もあるようだ。
地域医療再生基金が厚生連にたくさん回ったり、日赤や厚生連病院の建て替えの際には市町村からの補助金が一括で入るのを「ずるい」と複雑な思いでみているとのこと。
一概に数字だけを見て赤字だといわれても、厚生連や日赤は病棟の建て替え時に半額を市町村から補助を得たりしているが、公立病院は毎年分けて補助をもらっているなど、経営指標や決算方式がちがうため一概には比べられないという。(うちの院長が失礼しました)
事務方は市の中での移動で動くなど医療や医事に関して専門性が深まらないということは確かにあり、大町病院にも公立病院間でのネットワークはあるが、厚生連病院のようなネットワーク組織はうらやましいとのこと。
また病院を元気にしてくれる研修医がいるのがうらやましいという声もきいた。
ただ、時に安曇病院にかかっている患者さんなのに受けてもらえないことがあるのが気になるとのこと。お互い様ではあるがたしかにそういうこともあるだろう。

医療にかかるお金に貸しては、最終的には税金でも出資でもいいが、自分たちがきちんと参加して医療を運営しているんだと思えるような仕掛けが欲しい。
わかりやすい形で情報公開することが前提だろう。
また大町病院にかかっても安曇病院にかかってもちゃんと連携して最適な形で見てくれるという安心感がもてるような感じになればという話もあった。大町病院で、安曇総合病院の得意とする整形外科や精神科の外来に来て欲しいという希望も聞いた。2つの病院をバスでつないだり、カルテを共通にしたりまで出来ればいいが・・・。
まずは勉強会や飲み会をおたがいに声をかけあって共催することぐらいからか・・・。



大町病院の医療の隙間を埋め、アクティブに活躍されている、外科の高木先生ともじっくり話ができた。
高木先生はアニキと呼ばれているそうで、外科医は3人いて週2回の手術と緊急手術をやっているそうだ。
純粋に外科だけをやっていれば半分くらいの仕事量でそれほど忙しくはないのかも知れないが、内科医が少なくなった状態で、外科でも肺炎や動けなくなった高齢者など雑多な入院患者を見ているし、外来でも、ほとんど精神科や総合診療的な患者も見ているとのこと。
地域の病院では特にそういうスタンスの医師は貴重だ。
家は松本だが、月に10日は病院に泊まっている!とのことであった。
若月先生も外科医だったし外科と総合診療は意外と相性がいいのかもしれない。

さらに、先日から、週1コマ枠をつくり、初めてがんの終末期の患者に訪問診療をほそぼそとはじめたそうだ。
訪問看護師さんと一緒に行くのかとおもっていたが、外来の看護師さんといってくれと言われ、時間をつくって出てみたら病院から外に出るのも気分転換にもなって楽しかったとのこと。
いままで気づかなかったが、そういう目でみると訪問診療のニーズはあることに気づいたという。

ここまでやっていれば総合診療を名乗る資格はあるだろう。

大町病院ではベッドはあいいるが見られる医師がおらず、安曇病院に紹介してもベッドが満床で、技術的には地域で見られる方が南の遠い病院までいって入院しなくてはいけないような事態を減らしたい。
これまで安曇総合病院とは現場のコミュニケーションがなく、高木先生も安曇病院にも行ったことがなかったが先日はじめて行ったとのこと。
患者を通じた紹介状での交流に加えて、お互いどんな医療をしているか飲んだことがあったりして、顔と名前がしっているだけでもぜんぜん違う。
安曇野赤十字病院も含めて、お互いに交流し、患者さんや地域住民のためそれぞれの強みを活かせるようにしたいという思いを確認できた。


大町病院の病院祭。