リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
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木の芽どきのメンタルヘルス

2012年04月19日 | Weblog
【安曇総合病院の広報誌「きずな」、に書いた原稿です。】


 新年度が始まりました。この時期は進学や進級、異動や昇進などの環境変化でこころの不調をきたしやすく、また「木の芽時」、「春ボケ」などというように精神症状も揺れやすく精神科は忙しくなる季節です。

 新しい環境に適応できなかったり、人間関係で悩んだり、仕事内容のあてが外れたりして、希望に燃えているはずの時期なのにどうも空回りして頑張れない、これがいわゆる「5月病」で、大学新入生などに見られた現象でしたが社会人にも増えています。あえて精神科の診断名を付けるとすれば「適応障害」でしょうか。



 現代社会での仕事の多くは、感情をコントロールすることを強いられる人相手の感情労働で、精神的・情緒的な疲労感をためてしまいがちです。特に援助職は責任感や義務感から仕事にのめりこみやすく、何かの拍子に報われない気持ちになると、こころがポッキリと折れてしまうことがあります。これを「燃えつき」と呼び、新人とベテランは特に要注意です。チームで仕事をすることが何より大切です。

 メンタルの不調を感じたときには、「誰のため、何のため」に仕事をしているのか原点に立ちかえることが必要です。「はたらく」ということは、はやく、たのしく、らくになるように、くふうして、「傍を楽」にすることです。どんな仕事でも直接的、間接的に、「あなたは大切な人で生きている価値があるというメッセージ」を誰かに届けているはずです。

 こころに余裕がなくなると、自分にとって大切な物ほど大切にするという基本的なことも意外とできていないものです。良質な休養を取り生活全体をメンテナンスすることが必要です。身体の声に耳を傾け十分にケアしましょう。十二分に睡眠をとり、しっかり食べましょう。ただし毎日飲酒したり、寝酒をすることはアルコール依存症への第一歩です。生活のリズムを整え、街や自然の中にでかけたり、身体を動かしたり、本を読んだり、親しい人にグチを聞いてもらったりするのもよいでしょう。ベースキャンプである家は愛用品だけを残して片づけましょう。家族など自分にとって大切な人との関係や、仕事と生活のあり方を見なおしましょう。
 
 職場や仕事のことは上司と相談するのが原則なのですが、コミュニケーションがとれなかったりパワハラを受けていたりする場合は職場長や産業医など職域内の窓口を探してみてください。現場とトップが乖離していたり、責任者が無責任だったり、組織として人を大切にしないなど、職場の方が病んでいる場合もあります。

 抑うつ状態になると、気分は落ち込み不安や焦りばかりつのり、食欲も落ち眠れなくなります。柔軟な考えができず、疲れているのに自分からは休めず、自分や他人を責める気持ちや、死にたい気持ちがでてきます。そんな状態が続くようなら「うつ病」も疑われ、早めに精神科を受診することをおすすめします。

 精神科ではお話をお聞きして状況を整理し、悪循環から抜け出すためのお手伝いしています。病状や診断にあわせてお薬も調整していきますが、一番は「人薬」と「時薬」です。診断書をだして自宅での休養や入院療養を指示させていただくこともあり、患者はさまざまな社会的責務を免除される一方で、療養する義務がうまれます。治療は医療者と患者の共同作業であり、「養生」も大切です。自分の生きづらさの原因を知り、考え方のクセや対人関係のパターンを見直して練習するいい機会でもあります。

 人にはどんな状況からも回復する力が必ずあります。投げやりにならず焦らず丁寧に生きてみましょう。キャリアの中で求められていて、やりたくて、強みの活かせる天職に少しずつ近づけるといいですね。