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精神科医師のブログ。
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「ウェルハウスのぞみサンピア」に思う。

2009年12月06日 | Weblog
かつて「ウェルサンピア佐久( 長野厚生年金健康福祉センターサンピア佐久)」という温泉宿泊施設があった。

 発展著しい新幹線・佐久平駅、佐久平インターから車で20分という恵まれた立地条件のもと、浅間山を一望できるラウンジに展望風呂・露天風呂があり、宿泊施設以外にも会議、宴会 、婚礼、レストラン、スカッシュなどの施設、そして13,000坪の広い敷地内にはテニスコートや遊歩道があり、隣接して佐久市の薬草園とマレットゴルフ場をそなえていた。

 ウェルサンピアは厚生年金休暇センターまたは厚生年金健康福祉センターの愛称である。厚生年金保険法第79条に基づき設置され、厚生年金保険加入者の保険料を元手に、厚生年金事業振興団 が運営していた宿泊を中心とした施設で全国各地にある。

 「ウェルサンピア佐久」もリゾートブームに乗って大増殖した、言っちゃ悪いがどこにでもあるような施設だった。

 サービスや設備はソコソコであったが、わりといい場所にあることもあって学生時代、病院に見学に来たときに先輩研修医の先生に入浴に連れて行ってもらったり、その後も病棟の忘年会で使ったり、たまに入浴に来たり、訪問診療のたびに近くを通ったりとなじみの深い施設だった。
 
 例の年金問題で国の方針で全国の厚生年金関連施設は、独立行政法人「年金・健康保険福祉施設整理機構」により破格の値段で売りに出され、大手不動産会社やマンション業者、大学、大会社などによって買い叩かれた。

 「ウェルサンピア佐久」も公開入札で、小諸市などでケアハウスや薬局を経営するのぞみグループが落札した。
落札額は約2億2300万円。
規模や設備からして破格の値段である。



 2009年8月1日、ほとんどそのままの居抜き物件を利用した「ウェルハウスのぞみサンピア佐久」が誕生した。

新たにドッグランとドッグカフェを追加し、年内には住宅型有料老人ホーム、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、デイサービスセンターを併設(というかこっちがメインだろう)する。



入浴施設やレストランはほぼそのまま営業しているとのことで先日行ってみた。
温泉に入りレストランで食事もしてみたが、週末のわりには以前と比べ、客もスタッフも少なく閑散とした印象であった。
温泉は消毒塩素のにおいが濃く、浴槽の石が茶色くさびている、レストランも少人数のスタッフで運営しているなど以前と比べややクオリティが落ちているように感じた。
まもなく介護施設もオープンするとこのとで、売店にはオムツなどの介護用品が売られていた。



しかしなんだか釈然としないものはある。

厚生年金関連施設は終身雇用、年功序列に支えられた団塊の世代は支えるべき高齢者も少なかった時代、潤滑だった年金の資金を使い無計画につくられた施設である。

雇用の形態が多様化(使い捨て化)し会社の団体旅行や忘年会などのニーズも減っている。
小子高齢化が加速している時代であり、宿泊研修施設からケアホームへ転換するというのは施設の有効活用という意味ではニーズの変化にあわせた自然な流れであり仕方が無いことではあろう。

かつての佐久市の中心市街である中込にも民間病院(くろさわ病院)に隣接してホテルをケアホームに転換した施設がある。
松本の浅間温泉でも坊さんが主宰するNPOがケアタウン浅間構想で廃業したホテルをディサービスなどに転換している。
こういった事例は全国的にも増えているようだ。

製造業の不況で若い世代では医療・介護の関連の職種につく人が増えている。
雇用の確保や高齢者から若者への所得移転という意味はあるのだろうが・・。

しかし今の介護保険制度下では結婚して余裕を持って子供を育てられるほどの収入は難しいという矛盾。
プライドを持ちモチベーションを保ちながら介護職を続けられない。
これではますます小子高齢化が加速する。
地球が膨らむわけではないのでこれはこれでいいのかもしれないが、その時代に生まれ、大量の高齢者を支える立場の世代の人は大変だ。
香山リカのいう「貧乏くじ世代」だ。
全体として貧しくなる中で勝ち組、負け組などというさもしい言葉も耳にする。

オレもだって!

パンフレットを見てみる。

一般居室は49室(82人)。
しかし元気で自立していて住み慣れたところを離れてすすんで優良老人ホームに入るというニーズがどのくらいあるかというのも疑問だ。

「自由に活動的な生活をしていただけます。」とパンフレットにはあるがテニスコートや温泉を利用するような、しかもお金を持っている高齢者がすすんでこのような施設に入るとは考えづらい。

もともとが街からやや離れた場所にあるホテルなので、部屋や施設の構造も一時的な宿泊にはよいが、家として住み続けるには居心地が悪い気がする。

同じく佐久市内にある「萬里の郷」(ホテル一萬里温泉の関連施設)という温泉付き高級老人ホームも当初の予想のような人気は出ず、入居の一時金はどんどん下がっていったようだ。

ウェルハウスのぞみサンピアの場合は入居一時金一括方式で原則終身利用(死ぬまで)を前提とした契約、一般居室で500万~1600万、10年かけて償却される方式だ。
入居費用は20万円弱~30万弱/月の費用(食事つき)
ペットも躾が出来ている小型犬に限り2万円/月の追加料金で入居できる。温泉管理費が1万円/月。

公営の施設などで夫婦で入れる介護施設はそれほどは無いのでこういうのはありがたい。
しかしニーズがあるのは主に認知症を抱える人なのだ。(両方が認知症など。)
認知症を抱える人はどのくらいまで入れてもらえるのだろうか?
認知症になったら追い出されてしまうのではないだろうか?

別途、介護保険サービスを利用できるが、当然、施設内の訪問看護ステーションやヘルパーステーション、ディサービスのめい一杯の利用をすすめられるだろう。

介護居室も30室、定員38人あり、一般居室に入居していた人は優先的に入居できるそうだ。一般居室よりやや安い。
文句を言わない(言えない)からか?

病院の出口にいるからよくわかるのだが、脳卒中や認知症で自宅での暮らしが成り立たなくなったときに、在宅療養が困難(でお金の工面できる)高齢者の場合は、有料の老人ホームをすすめざるを得ない。
公設の特別養護老人ホームなどはどこも数年待ちで、本当に必要なときに利用できないし申し込んでおいても利用にはこれまで在宅介護をやってきたかどうか、また経済状況はどうかなどの行政判断も加わる。
かといって介護者がいることが前程の現行の介護保険制度のもとでは、介護保険サービスを使ったとしても、貧乏で共働きが多い若い人の生活は成り立たない場合もある。
障害をもった生活をあらかじめ想定している人は少ないだろうから、比較検討したり考えたりする暇もあたえられず後が無い。
どんどん増えている有料老人ホームがターゲットとしているのはこういった高齢障害者(およびその家族)だろう。

医療介護の世界で働いていたスタッフが矛盾を感じて、あるいは自分の親を介護するために立ち上げたりして頭の下がるようなケアや環境を提供しているケアホームがあることも知っている。

しかし多くの民間の老人ホームの場合、重度の身体障害や認知症、医療が必要な状態がなどあり本格的なケアが必要な人は避けられる傾向がある。
退院を迫られた家族があちこちに申し込みにまわらなければならないなど、それでも埋まるくらいのニーズがあるのだろう。

無認可の認知症の老人ホームなどで、高齢者が縛られていたり虐待されていたなどのことが問題となったことがある。
切実はニーズがあるのにもかかわらず制度や仕組み、地域にサービスが追いついていないことが原因だ。
なんとか入居することができたとしても、そこでの生活はどんなものだろうか。

民間の優良老人ホームに入居した患者さんが訪問診療で訪ねるたびに「さびしい。さびしい。」と訴えていたことが思い出される。

障害をかかえて生きる人にとって住宅問題は切実だ。

ケアを必要とする人が増え、「ケアつき住宅」、さらには「ケアつきコミューニティー」を待望している。
しかし、あとの無い高齢障害者は文句を言えない。

これから高齢者に突入する団塊の世代の財産は資本家たちのターゲットにされ、搾取の対象となる。
小泉政権の構造改革(郵政民営化、医療制度改革)もあり、お金が最終的にはアメリカの資本家の許に流れる仕組みが加速している。

われわれに希望はあるのだろうか?

私は若い障害者に期待したい。
彼らの仕事は、生存権を主張しあれこれわがままや文句を言うことだ。
ひとりでは生きられないのも芸のうち。

苦労して生きているのだ。
障害年金はそれに対するお給料だと考えてよい。
(少なすぎる!)

「障害を抱えて地域で暮らす人たちの指導のもと、医療・福祉などのケア産業にかかわる人たちが中心となり彼らの生存権を守るべくたたかうことで固くなり生きづらい社会を耕す。」

そこに、かすかな希望があると思う。

参考リンク。
「ケアつき住宅」そして「ケアつきコミュニティ」(色平哲郎 日系メディカルオンライン)

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