リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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依存症(アディクション)治療のマトリックスモデル

2009年12月22日 | Weblog
依存症の治療において「マトリックスモデル」という外来治療を基本としたモデルが注目されている。

これまで我が国のアルコール依存症などの治療は底付き体験を重視し、治療継続性を重視していなかった。
コントロールを失った飲酒行動により身体的にもボロボロになり、社会的信用や家族の信用などを失い、このままでは死んでしまう、しかし自分一人ではやめられないと思い知るいわゆる「底付き体験」を経て断酒を決心し断酒の3本柱(断酒会、通院、嫌酒薬)をつづけながら一日一日断酒を継続することが治療の中心であった。
結果として外来は投薬と短いカウンセリングのみであとは自助グループまかせというスタンスになりがちであった。

一方、入院型、入所型のアルコール依存症の専門病院でも他の精神障害の合併などがあり、プログラムの型にはまらない患者は対象外として放置されてきた。また退院後の十分なフォローができず治療が継続できない人が多かった。

しかしアルコール依存症は糖尿病や高血圧、タバコ、がんなどと同様の慢性疾患であると考えると、それぞれの地域で継続した治療を受けなければすぐに再発するのは当然だ。
マトリックスモデルにおいでは依存症治療の最終目標は、断酒・断薬ではなく、依存症と言う病を生き延びることができるように援助することだと考える。

マトリックスモデルでは外来ベースの初期回復プログラム、再発予防プログラム、家族教育プログラム、社会支援プログラムなど様々な治療プログラムが用意され、入院は急性増悪時のみに限る。
何度も失敗を繰り返し乱用がとまらない患者にはうんざりし患者の責任にかえしてしまいたくなるが、「治療継続性を重視」し、乱用がとまらない責任は患者ではなく援助者側にあると考える。

一律に断酒、断酒を目標として患者に押し付ける治療は早期の治療中断をもたらしやすい。
患者の中には節酒に戻ることが可能な群もいる。

治療継続性が予後に関連するので、とにかく来続けてもらうことを重視し「動機付け面接」を繰り返す。
すぐに嗜癖がとまらなくても、病識が不十分でも争わず、通院継続をねぎらう受容的な態度で接する。
再乱用時(スリップ時)にも突き放すのではなく援助を継続する。

嗜癖行動が、本人にとってメリットになっていた側面とデメリットになっていた面を客観的に把握してもらう認知への介入をおこなう。
細かなスケジューリングで暇な時間をなくす、HALT (Hungry,Angry,Lonely,and Tired)などトリガーとなるものを確認し対処行動を学んでもらうなど行動へも介入する。
プログラムではお菓子やコーヒーなども提供し、明るく受容的な雰囲気を重視し、ワークブックを用いて具体的にやめ方を学ぶ。
治療的な「場」が治療を促進すると言う考え方だ。
(東洋医学の外経絡・褥創のラップ療法みたく。)

現代社会においてギャンブルや買い物、リストカットやひきこもり、摂食障害、ボーダーラインパーソナリティ障害など依存症モデルとしてとらえることのできる精神疾患は多い。
嗜癖行動の行動変容にはマトリックスモデルのように場の力を利用したサポーテッド ピア サポート(Supported Peer Support)が鍵となる。

身体疾患でも多職種による継続的、多面的援助で心理的サポートを重視し行動変容を期待する藤沢町民病院の健康増進外来なども注目されているが、これもそういう時代の流れなのであろう。

香山リカ×勝間和代

2009年12月22日 | Weblog
精神科医etc.の香山リカと公認会計士etc.の勝間和代との対決が話題を呼んでいる。
AERA誌上では対談を行ったらしい。

どちらの著作も何冊か読んだことがあり、それぞれに共感できるところがあるのだが・・。

香山リカの「しがみつかない生き方」の帯にかかれた「勝間和代をめざさない。」というキャッチーなキャッチフレーズ(中の一章のタイトルでもある)が共感を呼ぶ人が多いらしくこの本は結構売れているという。
そして、勝間和代の近著、「やればできる」の帯には「香山リカさんの『しがみつかない生き方』を読み、正直、迷ってしまっているあなたに 読んでほしい」とあり正面から対決しているように見える。

もっともこの二人のよって立つスタンスが違うので議論はかみあわない。
ただお互いに利用しあっており、「Win-Win」でうまくやっているな。という感じ。


さて勝間和代のスタンス。

勝間和代の本は基本的には、現世利益をもとめるハウツー本、実用書、ビジネス書である。
カツマーと呼ばれる女性たちに支持されているらしい。
ポジティブシンキングを徹底し、自分軸を貫いてコミュニカティブであれば夢はかなうのですよ。そのための具体的な方法論はカクカクシカジカですよ。(インディ(ペンデント)な生き方をめざす。自分をGoogle化する。など)・・・・。
行動療法的ともいえる。
勝間和代は挫折をしてもめげることを知らず乗り越えてこられた強い人なのだろうか?
明確に方法論がのべらられておりノウハウを求めて読むにはいいが、押し付けがましさが多少うっとおしい。
心がつかれたときに癒しをもとめたり、生きる意味に迷ったときなどにはまったく役に立たない。
躁状態のとき向け。

そして香山リカのスタンス

香山リカの本は、心の平安をもとめるという意味で仏教の経典や哲学書に近い。
支持者はカヤマーと呼ばれはじめているらしい。
みんな、それぞれ背負っているものがあって、それぞれにがんばっている。
なるようにしかならないんだから、しがみつかず平凡で穏やかな「ふつうの幸せ」を手にしましょうよというスタンス。
香山リカとて社会的には成功者といえるのだろし、別に努力を否定しているわけではないのだが、精神科医として弱者に付き合ってきた経験からがんばりたくてもがんばれない人がいることも知っているのだろう。
香山リカのうつや貧困、ロストジェネレーションに関する言説はバランスが取れていると思う。
どうすべきという押し付けがましさはなく、全体に流れる「そのままでいいんだよ。」というメッセージにには癒される。
精神療法的と言える
ただエネルギーが有り余っていて何かをやりたい人が具体的なノウハウを得たいときには役立たない。
うつ状態のとき向け。

ま、それでも勝間和代の「インディな生き方」、香山リカの「しがみつかない生き方」のどちらも「他者に依存しすぎずに、個人として自律してしっかり生きていこう。」というというスタンスでは共通しており単に推奨するエネルギーレベルが違うだけのような気もする。
熱狂的な新興宗教と落ち着いた伝統宗教の差みたいな・・。

香山リカが五木寛之との共著の「鬱の力」の中で指摘するように時代は熱狂的な「躁の時代」を経て、ゆっくりと衰退、成熟へ向かう「鬱の時代」へ移行しつつあるように思う。
勝間和代のハウツーは利用させてもらうとしても、時代はサステイナブル、スローがキーワードである。スタンスとしては香山リカのほうがこれからの時代向きだろう。

しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール (幻冬舎新書)
香山 リカ
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断る力 (文春新書)
勝間 和代
文藝春秋

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とか言っていたら・・・・。2010年1月8日に共著で本を出版とか(↓)早っ。商売うまっ。

勝間さん、努力で幸せになれますか
勝間 和代,香山 リカ
朝日新聞出版

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