玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

講義録1 タヌキ <自動撮影カメラによる玉川上水の哺乳類の生息状況>

2016-04-25 01:54:59 | 生きもの調べ
玉川上水のタヌキを調べる(2016.4.18、武蔵野美術大学)


玉川上水の観察会で解説する著者(2016.3.21 武蔵野美大棚橋早苗さん撮影)

<自動撮影カメラによる玉川上水の哺乳類の生息状況>
 玉川上水を上空から撮影した写真をながめると、細長い緑の筋がずっと続いているのがわかります。私はこれを「一条の緑」と呼びたいと思います。
 自動撮影カメラによって玉川上水の哺乳類の生息状況を調べようと思ったとき、私はつぎの2点を課題として設定しました。
 ひとつは、東京の自然は「西高東低」、つまり西側の高尾山から山梨に続く丘陵地、山地には豊かな動植物がいますが、東になるにつれて多摩丘陵や狭山丘陵のような丘陵地に限定的になり、平野は市街地になって、都心では自然は「風前の灯火」のような状況にあります。だから、玉川上水沿いにすむ哺乳類も西で豊富で、東にいくほど貧弱になるだろうと考えたわけです。これをカメラで確認したいと思いました。
 もうひとつは、なんといっても玉川上水は「つながっていること」に価値がありそうなので、そのことを示すために、「つながっていない」緑地(孤立緑地)と比較してみようと思ったのです。哺乳類は鳥と違って飛ぶわけにいきません。それにある程度体が大きいので、暮らしてゆくにはある程度の広さが必要です。タヌキのすめる緑地が市街地化されて分断されると、タヌキは暮らしにくくなり、ついにはいなくなります。現に都心ではそういうことが起きました。そこで、玉川上水の周りにある孤立緑地でも同じ調査をして、玉川上水の結果と比較することにしました。
 調査は多田美咲さんの卒業研究として2008年の6月から2010年の1月までで、羽村の取水場の近くから都心の浅間橋までの32kmのあいだに24カ所、その範囲で孤立緑地を8カ所選んでおこないました。カメラを木の幹にとりつけ、カメラの前にドッグフードとピーナツを置き、1週間後にデータを回収しました。
 その結果、タヌキが一番よく撮影され、152枚写りました。驚いたことに、羽村でテンが5枚、キツネが1枚撮影されました。テンやキツネは東のほうではまったく撮影されませんでしたから、「西高東低」の一端が垣間見える結果でした。これで1番目の課題にはある程度答を得たといえます。


撮影された動物

 ところが、タヌキの撮影記録からは「西高東低」の傾向はよみとれず、むしろ東のほうで多いこともあり、東西という意味では傾向を見出すことはできませんでした。


玉川上水を西から5kmきざみでタヌキの撮影率を示した図(多田美咲卒業論文より)

それで、なぜそういうことが起きたか理解しようと現場を訪問してみたところ、あることに気づきました。小平には監視所といって、水質を監視する施設があります。ここで水道に使う水をとるので、ここより上流は水質をよい状態に保たなければなりません。そのために上水両岸は植物が繁茂しないように刈り取りをしています。ところがこれよりも下流では水量が少なくなり、両岸にはアオキ、ヒサカキ、シロダモなどの低木や草が生えてヤブになっています。もちろん上流にもときどきヤブがあるし、下流でもヤブでないところもあります。

 
小平監視所よりも上流(左)と下流(右)

 それで、ヤブがあるあところと、ないところで撮影率を比較してみたら、「ヤブあり」で撮影率が高いことがわかりました。


藪のあったところとなかったところの撮影率の比較多田美咲卒業論文より)

 このことはたいへん重要な意味をもっています。玉川上水は緑地面積では微々たるものです。それでも長く連なっていることで、タヌキが暮らすことができています。ところが、孤立緑地ではタヌキが暮らせないことが多いのです。私たちの調査で、「一条の緑」は市街地に囲まれた緑地の中でも特別な存在だということがわかりました。
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