玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

5月29日の観察会

2016-05-29 05:29:22 | 観察会

 毎月一度の観察会をすることにしたが、実際には1か月に一度だと植物が大きく変化してしまうので、できればそのあいだにもう一度集まったほうがよいと思い、人数は少なくなっても5月中にもう一度おこなうこととし、29日を選んだ。
 鷹の台の駅に集まって玉川上水に移動した。
 ひとつの作業として、今後の訪花昆虫の調査のために、自分が調査ルートのどこにいるかをわかるようにするため、玉川上水沿いにある柵にビニールテープで番号をつけることにした。杭の幅が2mなので、5つにひとつ5, 10, 15と番号をつけ、自分がスタート地点からどのあたりにいるかがわかるようにすることにした。

群落調査
 この作業をしながら、植物や昆虫などに出会うと自然と集まって話をするので、進み方はゆっくりだった。柵はまっすぐではなく、ときどき道幅が広くなって、緑地の幅が狭くなることがあったので、緑地幅の広いところで面積種数曲線を調べることにした。
 このあたりは林としてはわりあい明るく、スイカズラの多いところだ。始めに10cm四方から始めたが、スイカズラしかなかった。ある学生に調べてもらうことにして、
「よーく見て、ちょっとでも違うと思う種が出てきたと思ったら言って」
と言い、面積を増やしていった。スイカズラは木質のつるで、若いものは草本に見えるし、葉も切れ込みがあるので、違う種のように見えることがある。ビギナーの学生は
「あ、ありました」
と言うが
「それは同じスイカズラなんだ」
として、さらに探してもらう。私は慣れているので、最初からすぐに3種ほど見つけておいたが、言わないで見つかるのを待っていた。だが、誰からも声が上がらない。しばらくして
「あ、これ違う。これなんですか?」
という声があった。
「はい、シオデです」
というと
「これってサルトリイバラの仲間ですか?」
「あ、よく知っていますね、そうSmilaxという同じ属ですね。うん、これをサルトリイバラの仲間と思うのはなかなかスジがいい」
というと笑顔。
「単子葉植物なのに葉の形が丸っぽいのは特別なことです。そして3本の主脈があることも共通です。花があれば近いことが納得できます。
 私は鳥取の出身ですが、西日本では柏餅はサルトリイバラの葉で包みます。」
「へえー」
「あのねえ、柏餅のカシワはナラの仲間だけど、そもそもカシワってね」
といって手を合わすジェスチャーをすると
「柏手」
「そう、「かしわ」というのは手のひらのことなんです。だから餅を両手で包むということだから、葉っぱならなんでもいいわけだけど、餅はくっつくから、大きくて、丈夫で、ツヤのある葉がいいわけだから、使える葉は限られる」
「なるほど、それで南のほうにはカシワがないからかわりにサルトリイバラを使うんですね。「サルトリイバラ餅って言うのかな」
「いや、私は逆だと思う。そもそも餅というのはねばねばする食べ物で、熱帯の里芋を食べていた時代の食感を引き継いだという説がある。モチ系の食べ物は南由来だから、柏餅はむしろサルトリイバラにはさむのが原型で、北上する過程でサルトリイバラが少ないか、カシワのほうが多いかの理由でカシワの葉を使うようになったのだと思う。江戸が日本の中心になったのはたった昨日みたいなこもんだからね」
学生さんはやや納得できないような顔をしていたが、東京が日本の中心だという教育を受ければすっとは納得できないのかもしれない。
 調査面積を広げるうちに
「こっちにあるこの草はなんですか?」
「あ、それはヤマカモジグサ」
「・・・・」
皆さん黙っていたが、「こんな草にも名前があるの?」あるいは「こんな草の名前がなんでわかるんだ」という顔だった。
「さっきのとは違うんですね」
「あ、ノカンゾウね。確かに細長い葉だから似ているといえば似ているけど、科レベルで違います。ノカンゾウはユリ科、ヤマカモジグサはイネ科」
「へえー」
「パッと見ると似ているいたいだけど、ノカンゾウは葉が交互にかみ合うように出ているけど、イネ科は稈(かん)、ようするにストローがあって、そこに節がある構造になっています。そこから鞘(しょう)に支えられた葉が出ます。生長点はこの節(ふし)にあるので、この上の部分を刈り取られても再生できます。」
たまたま調査をしているときに、調査区の中にあるツリガネニンジンを折ってしまった人がいた。
「ツリガネニンジンは生長点が茎の先端にあるから、刈り取られるとダメージが大きいわけだ」
「そうだよね」
「実は地球が乾燥した時代に内陸に森林が成り立たない乾燥地が生まれ、そこで繁栄したのがイネ科だった。そのときにヒツジやバイソンのような反芻獣が爆発的に進化し、たくさんの種が生まれた。植物の葉は丈夫な細胞壁でできているから、ふつうの哺乳類の歯で噛んだくらいでは消化できない。われわれサルが利用できるのは春のみずみずしい細胞壁がやわらかい時期で、葉が硬くなってからは無理です。それを臼のような歯をもつ草食獣はよくすりつぶす。そして4つある胃袋に入れて、また食道を逆流させて何度も噛み直します。そして胃袋に微生物がいて発酵させます。それによって細胞壁が破壊されて内側の原形質が利用できるようになるだけでなく、微生物自体が寿命が短いから良質のタンパク質である死体が大量に生まれます。反芻獣はこれを利用するわけです。つまり人が草を利用できないから牧場でウシを飼って肉に変化させて利用するというのと並べて考えると、反芻獣は胃の中に微生物を飼ってその肉を利用するといえる。反芻獣の出現したことは、地球の物質循環も大きく変化させたほどの革命だったんです。」
「へえー」
「しかも、その微生物は反芻獣のお母さんの唾液を通じて子供に伝えられるんです」
「え、そうなの?」
「それが数百万年ずっと伝えられてきたと思うと感動的でしょう?」
「うん、うん」
ひとかたまりのヤマカモジグサから壮大な話に展開した。私たちが調査をするときはテキパキとすませて、ひとつでも多くの調査区をとるという感じで余裕がないが、こういう調査では雑談をしながら楽しく進めるほうがよい。

糞虫
 私は玉川上水で糞虫の調査を始めたので、このところ糞の分解などを見るために毎日のように玉川上水に通っている。その流れで、27日に新しく糞トラップを4つ置いておいた。1日おいて今朝、確認したらコブマルエンマコガネが来ていた。4つのトラップのうち1つはエンマムシしか来ていなかったが、そのほかには数匹のコブマルコガネが確認できた。


糞トラップの底に捕らえられたコブマルエンマコガネ


糞トラップを観察する

 ここまで、のべで20以上のトラップナイト(1つのトラップを一晩置いておくのを1トラップナイトという。2つを1晩置くのと1つを2晩置くのはどちらも2トラップナイトとなる)を調べ、ゼロもあったが、入っていた場合、すべてコブマルエンマコガネだ。これからも続けるが、これまでの結果がたまたまとは思えない。玉川上水には確かに糞虫がいるということ、その大半はコブマルエンマコガネだということはまちがいないようだ。

訪花昆虫
 前日下見に来たとき、ホタルブクロが花を咲かそうとしていた。ゴム風船が定着していま「風船」といえばゴム風船になったが、ツヤのある紙で作った和風船がある。ホタルブクロはちょうどあの和風船ように口を閉じていた。
 それが一晩経ってみると、ちゃんと開花していた。つぼみをみながら
「これってムム・・・って唇を閉じていて、開くときに「ンマ」って言ったみたいな気がする」
と言ったらみんなが笑った。


開花前後のホタルブクロ

 今回は端境期のようで、前回調べたエゴノキやマルバウツギの花は終わり、かといって先週からつぼみをつけはじめたムラサキシキブやネズミモチ、ナンテンなどはまだほとんど開花していない。いま咲いているのはドクダミくらいだった。そこで、分担してドクダミ、一部花を開き始めたホタルブクロ、ムラサキシキブへの訪花昆虫を記録することにした。1つのセッションを10分間とし、ひとつの花について3セッションのデータをとることにした。
 結果はドクダミとホタルブクロはゼロ、ムラサキシキブで2セッションでそれぞれ1匹のハチが来ただけだった。午後3時頃だったので少し日がかげり、花に直射日光が当たらないところもあったせいかもしれないが、それにしても大量の花が咲いているドクダミにまったく訪花昆虫が訪れなかったのはたまたまではなさそうだった。ときどきヒラタアブが来ていたが、ドクダミの中に生えるもう花の終わったオニタビラコには執着するが、ドクダミは見向きもしないようだった。どうやらドクダミは人気の花とはいえないようだった。


ドクダミの花に来る昆虫を待つ

 今回、小平市の中央公園というところから東に進んで津田塾大学の南までの600mあまりを歩いた。この範囲の中央あたりに府中街道が南北に走る。そのすぐ東側は上層の木を減らして明るくなっているので、4月以来、ハルジオン、オニタビラコ、ドクダミがつぎつぎと咲きついできた。明るいので花が咲きやすいのだろう。観察しながらここに至ると、歩くスピードがいつも遅くなる。それだけ発見が多いということだが、それはここの生物多様性が高いということだ。
 それにすぐ隣接して、津田塾大学のキャンパスにあるシイ、カシの常緑広葉樹林から続く林があり、うっそうとした雰囲気になる。この違いがまた多様性を生んでいるように思う。これは群落の管理と生物多様性のありかたを考えるよいヒントになると思う。調査が終わってから常連のメンバーと玉川上水の価値やこれからわれわれがすべきことについて話しあった。


津田塾大学の南側のうっそうとした林のようす

 私たちの雑談を聞きながら、美大の学生が言った。
「僕としてはイネ科の構造の話がおもしろかったです。機能的な背景があってそういう形があるんだということを知らないで、表面的なことを描いてもうまく表現できないように思うんです。」
うれしい発言だった。
「それはそうだよ。骨の構造がわからないで、人や動物を描いたのはだめなんだよね。不自然さが出てしまう。表面的に似ていても、見る人が見るとわかる。このプロジェクトで、美術系の人と自然科学系の人が影響しあうといいと思うんだけどな。私も絵は好きだけど、でも自分の役割は自然科学的姿勢を示すことだと思ってるんだ。生物学的に正確に描くことを伝えることだと思う。それはほんとの芸術を志す人には伝わると思うんだ。美術系の人の感性と自然科学的な事実優先の視点がぶつかってよいものが生まれるといいんだけどね。」

コメント
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