奈良新聞「明風清音」欄に、月1~2回、寄稿している(第3木曜日と、木曜日が5日ある月は最終の木曜日も)。今週(2024.5.30)掲載されたのは、〈観光ガイドの心得と技〉、来村多加史(きたむら・たかし)著『観光ガイド論』(晃洋書房刊)の紹介である。
観光ガイドのあり方について、解説した書籍はごく少ない。この本は、その貴重な1冊である。さりげなく書かれた表現の裏に、30年間の経験に裏打ちされたノウハウがぎっしりと詰まっている。観光ガイドをされる方には、必読書である。では、全文を紹介する。
観光ガイドの心得と技
NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は、社会貢献団体として「アウトプット」活動を重視している。その三本柱は、「観光ガイド」「講演・講座」「文化財の調査」である。中でもお客さまから最も人気を集めるのが「観光ガイド」で、あらかじめ実施日とコースを決めて募集する「参加者募集型ツアー」は、募集開始から数日以内に定員に達することが多い。
ガイドの養成方法は基本的にO.J.T.(現場訓練)で、新人は最初の1年間は先輩のツアーに同行して、やり方を学ぶ。しかしこの方法だと、先輩の技能や指導力により、バラツキが生じる。「スキルが標準化・言語化されていない」からだ。
そんな悩みを抱えていたところ、良い本を見つけた。来村多加史著『観光ガイド論』(晃洋書房刊 税別2800円)である。著者は阪南大学国際学部教授で長年、奈良まほろばソムリエ検定の「体験学習プログラム」(現地探訪)のガイドや、「認定支援セミナー」(受験対策講座)の講師をお務めになった方で、私もご指導いただいた。また明日香村では、「プロガイド養成研修」の講師もされている。
版元の紹介文には、「30年の経験から引き出された観光ガイドのノウハウと観光学の展望」とあり、まさにプロガイドをめざす人々への指南書である。
本書は「第Ⅰ部 ガイドの心得と技」「第Ⅱ部 旅を企画するガイド」の2部構成だが、ここでは第Ⅰ部から主な内容を紹介する。なお本書でいうガイドは高度な「企画ガイド」であり、「反復ガイド」(一定の場所、一定の地域に待機し、訪れた観光客を案内する)ではない。
▼ベースは安全、安心、快適
お客さまを楽しませる基盤の一番目は「安全」、参加者の安全確保が、何より大切だ。特に歴史ツアーは高齢者の参加が多いので細心の注意を要する。そのためにも綿密な下見が必要だ。
二番目は「安心」。参加者は取り残される不安、体調を崩す不安、他人に迷惑をかける不安、時間を失う(解散時間が遅れる)不安にさらされている。添乗員や乗務員と連携し、これらの不安の解消に努めるべきである。
三番目は「快適」。景色を楽しんでもらうことなどで、快適な時間を作り出す工夫が必要。
▼共感、納得、発展で満足を
参加者が自ずとガイドに「共感」してくれるような案内を心がける。下見で自分が感動したところを見てもらうなど。
「納得」とは、腑(ふ)に落ちる、ということ。少し言葉を足して説明することで、「ああ、そういうことだったのか」と心底から納得してもらう。
「発展」は、また次も来たい、行きたいと思ってもらえるような余韻を残すこと。「今日のツアーで出会った〇〇は、別の△△にもありますよ」と補足する。
▼発見、体験、臨場、愉快
コース設計を工夫して、「発見」の感動を与える。史跡などの見方(アングル)を変えることで、忘れられない「体験」をしてもらう。五感で「臨場感」を味わってもらう。自然なユーモアで「愉快」感を演出する。
▼観光ガイドは「客商売」
ガイドは、集合時間の1時間前には着いておく。普段から大きな声が出せるよう、練習しておく。車通りの少ない道を選ぶ。斜め横断をさせない。
社寺では、それとなく参拝を促す。境内では大声を出せないので、鳥居や山門の外で説明する。景色の良いところでは「撮影タイム」を設けて、交代で撮ってもらう。ガイドの仕事は、知識を伝授するのではなく「知識を伝えて感動してもらう」こと。説明は短く「起→結」で。「時間配分」に気を配る。地域の「特産品」「お土産物」をさりげなく紹介する。
総じて、ガイドは客商売である。〈人を導く教育者ではなく、人を楽しませる芸人たらんことを、ガイドはめざすべきである〉。第Ⅱ部では豊富な旅の「企画事例」が挙げられている。高度なガイドをめざす人は、必読だ。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)
観光ガイドのあり方について、解説した書籍はごく少ない。この本は、その貴重な1冊である。さりげなく書かれた表現の裏に、30年間の経験に裏打ちされたノウハウがぎっしりと詰まっている。観光ガイドをされる方には、必読書である。では、全文を紹介する。
観光ガイドの心得と技
NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は、社会貢献団体として「アウトプット」活動を重視している。その三本柱は、「観光ガイド」「講演・講座」「文化財の調査」である。中でもお客さまから最も人気を集めるのが「観光ガイド」で、あらかじめ実施日とコースを決めて募集する「参加者募集型ツアー」は、募集開始から数日以内に定員に達することが多い。
ガイドの養成方法は基本的にO.J.T.(現場訓練)で、新人は最初の1年間は先輩のツアーに同行して、やり方を学ぶ。しかしこの方法だと、先輩の技能や指導力により、バラツキが生じる。「スキルが標準化・言語化されていない」からだ。
そんな悩みを抱えていたところ、良い本を見つけた。来村多加史著『観光ガイド論』(晃洋書房刊 税別2800円)である。著者は阪南大学国際学部教授で長年、奈良まほろばソムリエ検定の「体験学習プログラム」(現地探訪)のガイドや、「認定支援セミナー」(受験対策講座)の講師をお務めになった方で、私もご指導いただいた。また明日香村では、「プロガイド養成研修」の講師もされている。
版元の紹介文には、「30年の経験から引き出された観光ガイドのノウハウと観光学の展望」とあり、まさにプロガイドをめざす人々への指南書である。
本書は「第Ⅰ部 ガイドの心得と技」「第Ⅱ部 旅を企画するガイド」の2部構成だが、ここでは第Ⅰ部から主な内容を紹介する。なお本書でいうガイドは高度な「企画ガイド」であり、「反復ガイド」(一定の場所、一定の地域に待機し、訪れた観光客を案内する)ではない。
▼ベースは安全、安心、快適
お客さまを楽しませる基盤の一番目は「安全」、参加者の安全確保が、何より大切だ。特に歴史ツアーは高齢者の参加が多いので細心の注意を要する。そのためにも綿密な下見が必要だ。
二番目は「安心」。参加者は取り残される不安、体調を崩す不安、他人に迷惑をかける不安、時間を失う(解散時間が遅れる)不安にさらされている。添乗員や乗務員と連携し、これらの不安の解消に努めるべきである。
三番目は「快適」。景色を楽しんでもらうことなどで、快適な時間を作り出す工夫が必要。
▼共感、納得、発展で満足を
参加者が自ずとガイドに「共感」してくれるような案内を心がける。下見で自分が感動したところを見てもらうなど。
「納得」とは、腑(ふ)に落ちる、ということ。少し言葉を足して説明することで、「ああ、そういうことだったのか」と心底から納得してもらう。
「発展」は、また次も来たい、行きたいと思ってもらえるような余韻を残すこと。「今日のツアーで出会った〇〇は、別の△△にもありますよ」と補足する。
▼発見、体験、臨場、愉快
コース設計を工夫して、「発見」の感動を与える。史跡などの見方(アングル)を変えることで、忘れられない「体験」をしてもらう。五感で「臨場感」を味わってもらう。自然なユーモアで「愉快」感を演出する。
▼観光ガイドは「客商売」
ガイドは、集合時間の1時間前には着いておく。普段から大きな声が出せるよう、練習しておく。車通りの少ない道を選ぶ。斜め横断をさせない。
社寺では、それとなく参拝を促す。境内では大声を出せないので、鳥居や山門の外で説明する。景色の良いところでは「撮影タイム」を設けて、交代で撮ってもらう。ガイドの仕事は、知識を伝授するのではなく「知識を伝えて感動してもらう」こと。説明は短く「起→結」で。「時間配分」に気を配る。地域の「特産品」「お土産物」をさりげなく紹介する。
総じて、ガイドは客商売である。〈人を導く教育者ではなく、人を楽しませる芸人たらんことを、ガイドはめざすべきである〉。第Ⅱ部では豊富な旅の「企画事例」が挙げられている。高度なガイドをめざす人は、必読だ。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)