毎日新聞「私が思う日本」欄は、外国特派員が見た日本を紹介していて興味深い。月曜日(2024.6.17付)には、「花見観光」のことを取り上げていた。
※トップ写真は、吉野山「花矢倉」からの眺め(2024.4.5撮影)
私も花見好きでは人後に落ちず、2021年(令和3年)11月に会社を完全リタイヤしてからは、「毎年吉野山へ、桜の写真を撮りに行くぞ!」という目標を立てた。会社勤務中はなかなか平日の休みが取れなかったので、土日に混み合う吉野山へは行けなかったのである。良い写真が撮れれば、会社の「OB美術展」にも出展しようともくろんでいた。
それで翌年からは、桜の開花情報と週間天気予報を見比べながら、慎重に日を選んだ。交通手段は近鉄特急と山内を走るバスだ。結局のところ、
2022年 4月 7日(木=下千本が満開)、11日(月=上千本が満開)
2023年 3月28日(木=下千本が満開)、31日(日=上千本が満開)
2024年 4月 5日(金=下千本が満開)
万博記念公園の桜(2022.4.1撮影)
という結果だった。2022年は開花が遅かったので、しびれを切らして4月1日(金)に大阪の万博記念公園に行ったところ、ソメイヨシノがほぼ見頃を迎えていた。やはり大阪は暖かいのだ。2023年はやむなく日曜日(3/31)に重なり、危うく近鉄特急に乗れないところだった。なお吉野山(シロヤマザクラ)下千本の開花状況は、ほぼ奈良盆地(ソメイヨシノ)の開花状況に重なる。
見ていただいたとおり、年により開花状況は大きな変動があることが分かる。これには昨今の地球温暖化に伴う気候変動が影響しているということだろう。日本に住んでいる私でも苦労するのだから、外国から桜を求めて来られる方は、もっと苦労されることだろう。
明日香村「石舞台」の桜(2024.4.6撮影)
今春には台湾の旅行エージェントが「日本は桜の時期、外国人観光客受け入れ体制の整備を!」と要請していたが、日本人観光客の受け入れだけでも大変だから、これはムリかも知れない。
今年は吉野山は4/5(金)だけとなったが、4/6(土)には明日香村の石舞台、4/7(日)には壷阪寺へ花見に行った。壷阪寺は「道路が混雑して車が動かない」と聞いていたので、駅から徒歩で向かった。青空のもと、念願の「桜大仏」の写真が撮れて、大満足である。前置きが長くなった。以下に記事全文を紹介する。
壷阪寺の「桜大仏」(2024.4.7撮影)
東京に駐在する外国メディア特派員らの目に、私たちの社会はどう映っているのだろうか。韓国、フランス、英国、バングラデシュ、シンガポールの個性豊かな記者たちがつづるコラム「私が思う日本」。
聯合早報(シンガポール)の符祝慧(ふしゅくけい)・東京特派員は、気候変動により春の桜前線に異変が起きており、観光にも影響を及ぼしている現状を指摘した。
桜前線に異変!? 聯合早報東京特派員 符祝慧氏
花見観光、変化の兆し
日本で春といえばサクラの花見だろう。サクラは日本に1000年以上前から根付き、花見の名所は1000カ所以上ある。サクラの花は傷みやすく、長持ちしない。開花時期や開花した花が日持ちするかどうかは、天候と密接なかかわりがある。今年の東京は、暑かったり、寒かったりと不安定で、サクラの開花予想は何度も変わった。
3月27日、サクラの名所である東京・上野公園に行ってみた。サクラは、まだほとんど咲いていなかった。なんとか咲いていた数輪の花の周りを何人もの人が取り囲み、携帯電話で盛んに写真を撮っていた。
シンガポール人女性2人はサクラを見ようと、3月19日から10日間の日程で東京に観光旅行にやってきた。そのうちの1人は「東京をあちこち巡ったけど、見ごたえがあったサクラは1本だけ」と話し、開花時期の遅れを残念がった。
また、家族3人でサクラ見物にきたシンガポール人男性は「今晩帰国しなければならない。今回は満開になるまで滞在できなかった。次回はもっと情報収集して、旅行期間も長い日程で検討しなくてはだめだね」とため息をついた。
各地のソメイヨシノの開花予想日を結ぶ「桜前線」は、例年なら南の鹿児島県から北は青森県や北海道へと北上していく。外国人観光客の中には、サクラを追い求めて桜前線のように北上していく人もいる。
ところが近年、この桜前線の北上パターンが崩れてきているという。気象庁の記録によると、2020年のサクラの開花は特に早かった。この年は記録的な暖冬で、東京の開花は3月14日で九州各地に先んじた。この現象について専門家は「世界の生態系を脅かす大規模な気候変動の兆候だ」と警鐘を鳴らす。報道によると、07年には鹿児島県でサクラがなかなか満開にならず、そのまま散ってしまうケースが観測された。
サクラの開花には、春の暖かさだけでなく、実は、冬の寒さが欠かせないのだそうだ。この寒さによって、眠っていたサクラの花芽が目覚めて成長を始める。これを「休眠打破」というが、地球温暖化によって気温が上昇すると、休眠打破に必要な冬の寒さにさらされていないため、開花時期が遅れることがあるという。満開にならなかったり、少しも開花しなかったりする恐れもあるという。将来的には九州南部の一部で、開花しない地域が出現する可能性も指摘されている。
千葉県で約17年間、ラン栽培を続ける台湾人の友人も、近年は台風や大雨が増え、気候の大きな変化を感じるという。彼は「サクラはランと同じように特に気温に敏感だ」と話す。
サクラの開花が早かったり、遅かったりするのは自然現象だが、サクラは重要な観光資源でもある。ある調査によれば、日本人の約6割が毎年のように花見に行くと答えた。花見がもたらす経済効果は無視できない。今年のサクラの花見による経済効果は、1兆円を超すだろうとの試算もある。
シンガポールのある旅行代理店によると、今年3月から4月上旬にかけ、日本に花見で旅行に行く団体客は約60組に上ったという。開花シーズンを前に取材に応じた代理店の担当者は「今年は、日本の受け入れ側と緊密に連絡を取って開花日をより正確に把握したい」と話していた。
外国人観光客の中には、いっぷう変わった「サクラの追っかけ」もいた。日本にはソメイヨシノだけでなく、サクラの種類が多いことを知っている一部の外国人は、さまざまなサクラとその開花時期、場所を組み合わせて旅程を計画していた。
生態系の異変は、季節に合わせた観光にとって不確定要素であり、その観光に変化が起きつつある。日本の観光業がこの変化にいかに対応していくのか、人々が季節の旅行をどう計画していくのか、これからの課題となるだろう。【訳・鈴木玲子】
◆人物略歴 符祝慧(ふ・しゅくけい)氏
1964年、シンガポール生まれ。現地の高校を卒業後、日本に留学。日本大芸術学部放送学科卒。東京大大学院修士課程修了。シンガポール国営放送で時事番組のディレクターやリポーターを務めた後、2000年から「聯合早報」東京特派員。
※トップ写真は、吉野山「花矢倉」からの眺め(2024.4.5撮影)
私も花見好きでは人後に落ちず、2021年(令和3年)11月に会社を完全リタイヤしてからは、「毎年吉野山へ、桜の写真を撮りに行くぞ!」という目標を立てた。会社勤務中はなかなか平日の休みが取れなかったので、土日に混み合う吉野山へは行けなかったのである。良い写真が撮れれば、会社の「OB美術展」にも出展しようともくろんでいた。
それで翌年からは、桜の開花情報と週間天気予報を見比べながら、慎重に日を選んだ。交通手段は近鉄特急と山内を走るバスだ。結局のところ、
2022年 4月 7日(木=下千本が満開)、11日(月=上千本が満開)
2023年 3月28日(木=下千本が満開)、31日(日=上千本が満開)
2024年 4月 5日(金=下千本が満開)
万博記念公園の桜(2022.4.1撮影)
という結果だった。2022年は開花が遅かったので、しびれを切らして4月1日(金)に大阪の万博記念公園に行ったところ、ソメイヨシノがほぼ見頃を迎えていた。やはり大阪は暖かいのだ。2023年はやむなく日曜日(3/31)に重なり、危うく近鉄特急に乗れないところだった。なお吉野山(シロヤマザクラ)下千本の開花状況は、ほぼ奈良盆地(ソメイヨシノ)の開花状況に重なる。
見ていただいたとおり、年により開花状況は大きな変動があることが分かる。これには昨今の地球温暖化に伴う気候変動が影響しているということだろう。日本に住んでいる私でも苦労するのだから、外国から桜を求めて来られる方は、もっと苦労されることだろう。
明日香村「石舞台」の桜(2024.4.6撮影)
今春には台湾の旅行エージェントが「日本は桜の時期、外国人観光客受け入れ体制の整備を!」と要請していたが、日本人観光客の受け入れだけでも大変だから、これはムリかも知れない。
今年は吉野山は4/5(金)だけとなったが、4/6(土)には明日香村の石舞台、4/7(日)には壷阪寺へ花見に行った。壷阪寺は「道路が混雑して車が動かない」と聞いていたので、駅から徒歩で向かった。青空のもと、念願の「桜大仏」の写真が撮れて、大満足である。前置きが長くなった。以下に記事全文を紹介する。
壷阪寺の「桜大仏」(2024.4.7撮影)
東京に駐在する外国メディア特派員らの目に、私たちの社会はどう映っているのだろうか。韓国、フランス、英国、バングラデシュ、シンガポールの個性豊かな記者たちがつづるコラム「私が思う日本」。
聯合早報(シンガポール)の符祝慧(ふしゅくけい)・東京特派員は、気候変動により春の桜前線に異変が起きており、観光にも影響を及ぼしている現状を指摘した。
桜前線に異変!? 聯合早報東京特派員 符祝慧氏
花見観光、変化の兆し
日本で春といえばサクラの花見だろう。サクラは日本に1000年以上前から根付き、花見の名所は1000カ所以上ある。サクラの花は傷みやすく、長持ちしない。開花時期や開花した花が日持ちするかどうかは、天候と密接なかかわりがある。今年の東京は、暑かったり、寒かったりと不安定で、サクラの開花予想は何度も変わった。
3月27日、サクラの名所である東京・上野公園に行ってみた。サクラは、まだほとんど咲いていなかった。なんとか咲いていた数輪の花の周りを何人もの人が取り囲み、携帯電話で盛んに写真を撮っていた。
シンガポール人女性2人はサクラを見ようと、3月19日から10日間の日程で東京に観光旅行にやってきた。そのうちの1人は「東京をあちこち巡ったけど、見ごたえがあったサクラは1本だけ」と話し、開花時期の遅れを残念がった。
また、家族3人でサクラ見物にきたシンガポール人男性は「今晩帰国しなければならない。今回は満開になるまで滞在できなかった。次回はもっと情報収集して、旅行期間も長い日程で検討しなくてはだめだね」とため息をついた。
各地のソメイヨシノの開花予想日を結ぶ「桜前線」は、例年なら南の鹿児島県から北は青森県や北海道へと北上していく。外国人観光客の中には、サクラを追い求めて桜前線のように北上していく人もいる。
ところが近年、この桜前線の北上パターンが崩れてきているという。気象庁の記録によると、2020年のサクラの開花は特に早かった。この年は記録的な暖冬で、東京の開花は3月14日で九州各地に先んじた。この現象について専門家は「世界の生態系を脅かす大規模な気候変動の兆候だ」と警鐘を鳴らす。報道によると、07年には鹿児島県でサクラがなかなか満開にならず、そのまま散ってしまうケースが観測された。
サクラの開花には、春の暖かさだけでなく、実は、冬の寒さが欠かせないのだそうだ。この寒さによって、眠っていたサクラの花芽が目覚めて成長を始める。これを「休眠打破」というが、地球温暖化によって気温が上昇すると、休眠打破に必要な冬の寒さにさらされていないため、開花時期が遅れることがあるという。満開にならなかったり、少しも開花しなかったりする恐れもあるという。将来的には九州南部の一部で、開花しない地域が出現する可能性も指摘されている。
千葉県で約17年間、ラン栽培を続ける台湾人の友人も、近年は台風や大雨が増え、気候の大きな変化を感じるという。彼は「サクラはランと同じように特に気温に敏感だ」と話す。
サクラの開花が早かったり、遅かったりするのは自然現象だが、サクラは重要な観光資源でもある。ある調査によれば、日本人の約6割が毎年のように花見に行くと答えた。花見がもたらす経済効果は無視できない。今年のサクラの花見による経済効果は、1兆円を超すだろうとの試算もある。
シンガポールのある旅行代理店によると、今年3月から4月上旬にかけ、日本に花見で旅行に行く団体客は約60組に上ったという。開花シーズンを前に取材に応じた代理店の担当者は「今年は、日本の受け入れ側と緊密に連絡を取って開花日をより正確に把握したい」と話していた。
外国人観光客の中には、いっぷう変わった「サクラの追っかけ」もいた。日本にはソメイヨシノだけでなく、サクラの種類が多いことを知っている一部の外国人は、さまざまなサクラとその開花時期、場所を組み合わせて旅程を計画していた。
生態系の異変は、季節に合わせた観光にとって不確定要素であり、その観光に変化が起きつつある。日本の観光業がこの変化にいかに対応していくのか、人々が季節の旅行をどう計画していくのか、これからの課題となるだろう。【訳・鈴木玲子】
◆人物略歴 符祝慧(ふ・しゅくけい)氏
1964年、シンガポール生まれ。現地の高校を卒業後、日本に留学。日本大芸術学部放送学科卒。東京大大学院修士課程修了。シンガポール国営放送で時事番組のディレクターやリポーターを務めた後、2000年から「聯合早報」東京特派員。