今日の京都新聞に興味深い記事が2つ。
1つは控えめながら政治家の痛いところを衝くコラム。
最近の京都新聞は揺れ幅が激しいが、創業一族・経営者と対極にいて振幅を大きくしている存在が、おそらくこの日比野さん、元新聞労連委員長、京都新聞編集委員兼論説委員の重責にも就かれ、現在は京都新聞東京編集部長(東京へ左遷?)。
もう1つは関連するテーマに関する書評。
「資本主義だけが残った」ブランコ・ミラノヴィッチ(ニューヨーク市立大学大学院シニアスカラー )
評者は、諸富徹京大教授。
もっとも、読んで分かるように、評者は著者の考えを後追い要約しているだけで評論はしてはいない。これが書評と言えるかはさておくとして、
まず、著者のブランコ・ミラノヴィッチ氏は「ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー」という肩書きの資本主義信奉者であり、”その立場から現代資本主義の問題点と未来への展望を考察した書”という事実は抑えておかねばなるまい。
著者の主張を私なりに再度、要約すると、
経済圏が拡大していく歴史過程で、社会経済システムの目的は利潤追求であり、それこそが最大の価値であるとする「リベラル能力資本主義」が欧州で誕生し、ゆっくりと成長拡大を続けて行った(グローバリズム)。
一方で、経済力で先行する「リベラル能力資本主義」に後れを取った後進国(地域)では、対抗するために急速な資本主義化を急がねばならず、推進力としての国家的総動員体制確立のために、共産主義を唱える共産勢力の台頭は必要な過程であった。こうして生まれた資本主義を「政治的資本主義」と定義し、「共産主義」は「資本主義にとって替わるシステム」なのではなく、後進国(地域)が「資本主義」に至るための単なる過程に過ぎない、とする。
「リベラル能力資本主義」では資本が資本を再生するしくみにより、ごく少数者への利潤と資本の集積が加速度的に進行し、ますます格差が拡大せざるを得ない。一方「政治的資本主義」では、政治的腐敗と利権による格差を生み出さざるをえない。
いずれにしても格差が拡大せざるを得ないという、共通の問題点を抱えている。
著者は、そもそも「資本主義」、「共産主義」を社会体制の歴史の中での位置づけとしてしか定義していなくて、中身の考察はほとんど行っていない。つまり自分の土俵へ引っ張り込んで自分有利の土俵でのみ議論するという、老獪な「知識人」の手口でありフェアな議論ではない。
そして著者が提示する資本主義の将来への指針は、
「グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、(マルクス主義のいう)社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、「民衆の資本主義」への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、「政治的資本主義」同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。(「フォーリン・アフェアーズリポート」2020年1月号)」
著者が目指すべきとする「民衆の資本主義」とは?上の引用にそって書き出してみると、
『格差を是正し、「民衆の資本主義」への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。』
日本風に分かりやすく言い換えてみると、
「富裕層の税引き上げで格差是正」、「公教育の充実で国民全体のレベルアップ」、「政党助成金!?で選挙活性化??」、「小金の投資運用(NISA)による中間層の所得引き上げ」、ちょっと拍子抜けするほど凡庸・陳腐ではある。
この立場からすると、後進地域中東では「イスラム原理主義」が「共産主義」の役割を果たすことになるとも考えられるのかもしれない。