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市内浜北区にある〈静岡県立森林公園〉に行き、2年ぶりに園内遊歩道を歩いた。前々年に見たササユリを期待していたが、残念ながら花期が終わっていたのか見つからなかった。盛期であればシャンデリアの様相を呈するエゴの花も、今はほとんど落ちて残る花はごく僅かだった。
盛りの樹花は、あまり見栄えのしないマサキだったが、高い位置から樹を俯瞰して見ると、花は盛大に咲いていた。
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何とかクチナシの残り花を見ることができた。
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草花は、ノアザミとネジバナを辛うじて目にした。
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シダ植物のシシガシラを見つけた。天然赤松林ならではのシダ植物の群生、これまではほとんど見過ごしていた。
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考えてみれば梅雨時は、山野に咲く花が真冬に次いで少なくなる季節である。花に目を奪われないで植物を観察するには、好適期ということになる。
コケ、キノコ、シダの好きな渋好み人には、絶好期なのかもしれない。
ここは〈天龍奥三河国定公園特別区〉の静岡県側の拠点に当たる。東は天竜川の右岸で限られ、西は標高30m台の三方原台地に続いている。南に遠州平野を見下す標高70mから150mの丘陵地全体が公園化され、植物相も動物相も豊かな自然公園である。サル・ニホンジカ・イノシシ・カモシカ・ノウサギなどが生息し、野鳥は80種生息しているという。
カモシカが居るのは、この丘陵が赤石山系の末端に繋がっていることの証明だろうか?
園内の遊歩道はコースがいくつかあり、延べ17kmにも及ぶ。適当にアップダウンもある。私にとっては、愛知県の自然観察拠点〈愛知県民の森〉と同程度に、自然観察やハイキングに通った最も身近な森林。公園内の樹木は遷移途上の赤松が目立ち、林床は低木とウラジロシダやコシダが特徴的、陽樹と陰樹の混ざる好適な森林観察地である。
自宅から車で1時間の近距離なので、これまで宿泊は考えなかった。だが自分や妻の年齢を考えると、疲労を伴う野外活動は宿泊行が望ましい。今回初めて宿泊した。
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園内宿泊施設「森の家」
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森林公園とあって、木が強調されていた。
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翌朝は4時半にトビの鳴き声で目が覚めた。鳥の目覚ましは久しぶりだ。「ピーリョリョリョロロロロ」と規則正しい間隔で鳴いていた。空高く翔んでいる時の声のんびりした鳴き声とは違い、近くの幹の先端に留まって発しているらしい。これまでに聴いたことのない声だったので、なかなか特定出来なかった。
あたりが明るくなるにつれ、野鳥の鳴き声も高まる。個体数が多いのだろう。ウグイスの鳴き声は他の鳥を圧倒している。森の野鳥の声をベッドで聴く嬉しさは、登山を罷めた70歳以降絶えてなかったことである。山の鳥たちによる目覚しは、沢の瀬音で就く眠りと対照的なもので、私にとっては、どちらも値千金の価値がある。
朝食前に外に出て園内を散策すると、姿は見えないがすぐ近くまでウグイスが寄って来ているのが声でわかった。警戒しているのだろう。
子どもたちが幼なかった頃、遊ばせるに最も安全な森林として、この森に度々連れて来た。自然林に囲まれた芝生の広場は、眼を離していても安心だった。
この地は、かつて昭和の中頃まで、松茸山として有名だった。松茸が取れなくなった昭和の終わりごろのある時、キノコに詳しい人に跟いて歩き、ヌメリイグチを大量に採ったことがある。それが、ヌメリイグチの味というか独特の食感を知った最初だった。
翌日はすぐ家に直行せずに、奥三河に向かった。川魚の好きな老生は、どうしてもこの季節になると、長篠城の先の寒狭川を訪れずにはいられない。
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梅雨時でも、長篠大橋を渡り中央構造線を越えると、光と空気が変わる。湿気の稠密度が、遠州とは明らかに違うように感じる。
奥三河が好きな理由のひとつは地質である。風化花崗岩質の土壌は、水の浸透すなわち水捌けが良く、溢水とか湛水とは無縁だ。泥んこになり難い。要するに雨が降っても、地面がビチャビチャにならない。この語音は、聴くだけでおぞましさを感じる。梅雨時には尚更である。サラッと乾いている状態が、人間には一番快適であることは言うまでもない。
水成岩の遠州と火成岩の奥三河の光(散光)と空気(湿気)の質の顕著な差異を、老生若い頃から度々熱く語るが、遠州人にも三河人にも、なかなか共感してもらえない。
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