道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

感懐を掬う

2024年06月11日 | 随想
世の中には、老人になってみなければわからないことが沢山ある。若い頃には考えが及ばなかったことが多い。知恵が足りなかったのではない。人生体験の不足が、適切な思考を促さなかったのである。

人は老人になるに従い、心裡に溜まった感懐を掬い上げることが多くなる。
芸術の素養のある人たちは、創作に感懐を籠めることが出来る。書や画、音楽や詩作など、表現をもってそれをする人たちは多い。筆の立つ人は書簡や随筆の形をとることもあるだろう。どんな方法でも、自らの胸の内にある感懐を、人に伝え共感を得ることができたら、欣快この上ないことと思う。

心の裡に在るものは、現在の意識の表面に泛かんでいなくても、無意識下に厚く積み重なっているに違いない。それらのひとつひとつが任意に浮かび上がるのを掬い採り、考察を加えることは、時間に余裕がある(というか無いというか)老人にこそ相応しい楽しみごとであるように思う。

現役生活での軛を解かれ、洒脱の境地に身を置いて初めて、胸中にある感懐は掬い採ることができるようになるのだろう。これは、老人に許された、数少ない楽しみごとのひとつであるように思う。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« おだて | トップ | 共感 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿