道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

ユーモアについて(その2)

2021年01月27日 | 人文考察

コロナ禍という未曾有の災厄に見舞われ、不安が重苦しくのしかかっているこんな時こそ、日常生活でユーモアを忘れないようにしたい。ユーモアというものは、逆境にある時にこそ、その真価が発揮されるものである。

目下は専門家でも対応と予測に確信が得られない非常事態、メディアに煽られ素人が政府の不手際を非難したところで、然るべき政治家(統合家)不在の日本では、最適の対処は無理だろう。

感染者の拡大と死者の増加に、首相・大臣や各都道府県首長は緊張感を露わにして記者会見に臨む。しかし、専門家の受け売りでは、国民に安心を与えない。メディアは連日政府の対策と感染状況を伝えるだけの発表報道に終始するしかない。社会の不安は深まるばかりである。

このように社会から余裕が失われつつある時、状況を客観視して余裕を取り戻し、明日への希望と勇気を鼓舞してくれるものは、唯一ユーモアであろう。
ユーモアは、自分で自分のおかしなところに気づき、面白がる気持ちがあって初めて、その人に宿る。

今を遡ること80年前の第二次大戦下の英国では、約8カ月もの間、ロンドンをはじめ20近くの都市が連日ナチスドイツの爆撃機による空襲を受けた。ロンドン大空襲(The Blitz)である。

死者は5万人近く、建物の損壊は100万を超えた。時の首相チャーチルは、官民の力を結集してこの大空襲を跳ね返したが、それに大きく寄与したのは、彼のユーモアであり、それを理解する国民だった。

ヒトラーはその後開発した無人機(ドローン)V1と弾道ミサイルV2をもって、さらにロンドンに渡洋空襲を続けた。
特に音速を超え防空網を突破して着弾する、迎撃手段の無いV2(ちょうど今のコロナウイルスのよう)は、ロンドン市民を恐怖のどん底に陥れた。
V1は迎撃することが可能、V2は故障も多く命中精度が低かったことで、実質的損害はThe Blitzの時を下回った。

チャーチルは問題の多い人だったらしいが、英国が苦境にあるとき、ユーモアで国民の緊張を和らげ、勇気を鼓舞し団結を図り、祖国をナチスから守り世界を救った。偉大な業績は歴史にも国民の心にも刻印されている。

当時ナチスと同盟していた日本も、アメリカ軍のB29よる東京大空襲に始まる爆弾・焼夷弾の攻撃を各地に受け、国民は苦境の真っ只中にあった。この同時期の日英両国民の受けた苦難は似ているが、彼我で際立って違っているのは、ユーモアの有無だった。

日本でその当時ユーモアなどを発すれば、「この非国民!」「この非常時を何と心得る!」と非難されたことだろう。官憲が言うのではない。町内会長だの国防婦人会長など、民衆の側の代表者がそれを言う。民衆の心性が,ユーモアを許さない。

余裕と自信を失ったこの国の軍部主導政権は、日に日に窮地に追い込まれ、判断する能力を失い、思考停止状態に陥った。結果として国の指導者は、降伏のタイミングを見誤って、より惨禍を拡大させた。

目下のコロナ禍でも、私たち民衆は悲惨な状態にある。ウイルスを防ぐ手立ては無いに等しく、有効な治療薬もない。事業の存立は揺らぎ、職を失う人たちが増す一方である。まさに国民は八方塞がりの閉塞状況にある。

テレビはコメンテーターを動員し、解決策のない不毛な談論を放映し続け、政権を忖度し視聴者の行動抑制を図る。
メディアの役割は、事実を伝えるに尽きるが、落ち込みがちな国民の気分を明るくすることも仕事のうちである。その材料はいくらでもあるのに、テレビは人々の心を和らげる任務を全うしていない。

人々を救うことは、直接の医療ばかりではない。人々の心の安寧をはかることも重要である。
病床の逼迫を伝え、医療従事者の苦闘を伝えるばかりでは、より不安を煽り立ててるばかりだろう。

事態が悲惨だからこそ、人々の心を和らげる配慮が欠かせない。そこにユーモアの出番がある。
どうすればユーモアを発することができるかは、心の在り方の問題だから誰も指導はできない。学んで覚えられるものでもない。だが、健全なユーモアがどこから生まれるかは、おおよそ見当がついている。

I.ユーモアの定義
本来なら緊張をもって臨むべき重大で厳粛な事態や危難に対し、それを真っ向から受けとめるのでなく、軽微で滑稽なものとして矮小化してみせる精神活動。自我を保護するための安全装置のようなものである。

II. ユーモアの生まれる要素
①一筋縄でいかない反骨心と強烈な自我
②権威・権力に屈しない勇気
③常識を疑う批判力と自由な発想
④物事に正対しないで斜め横から見る自由な視座
⑤円満で穏やかな寛容性
⑥人間性への理解と平等意識
⑦自分自身の可笑しさを嗤う客観性
⑧虚栄と偽善を嫌う潔癖さ
⑨博い知識と豊かな想像力

以上のような心の在り方が、ユーモアの源泉となるらしい。



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