道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

長時間停電

2018年10月02日 | 人文考察

930日、2250分、当地は台風24号の猛烈な風雨の最中に停電に見舞われた。78万戸の未曾有の広域停電。復旧まで約28時間に及んだ。

目覚めたら停電していたという経験は滅多になく、生活のペースが狂った。暴風にによって広範囲にわたり、各配電回路で千箇所近くの損傷を受けたことが原因と、電力会社は発表した。

普段はテレビをあまり見ないが、情報が欲しい時に停電しているのは困った。全国津々浦々に支局を置いて、災害報道では水も漏らさぬ態勢を敷いているNHKテレビも、受信者側が停電していてはせっかくの報道が届かない。

昔は台風のテレビ中継というと、荒れ狂う猛烈な風雨の中を、雨着に身を固めた若いアナウンサーが、悲壮感漂う決死的な報道を競って繰り広げ、視聴者は手に汗を握って、画面に見入ったものだった。報道機関は、自衛隊、消防に準ずる、使命感のためには危険をも省みない、雄々しく真面目な職場だと子供たちは信じたことだろう。

戦争中、沈みゆく戦艦から打電し続けた通信兵を思わせるこの中継報道、昨今は、労使で協定したのか、海外から指弾されたものか、そのようなシーンは消えた。アナウンサーは必ず屋内の安全な場所から中継し、それを視聴者に伝える。横殴りの雨、砕け散る白浪、千切れんばかりの樹木の揺れは、固定カメラからの映像に変わった。

日本人は決死的なことや悲壮なことを殊の外好むところがある。本邦初の特撮怪獣映画「ゴジラ」では、刻々と東京タワーに迫るゴジラを展望室から必死に中継するアナウンサーのシーンが観客の胸を打った。戦後まだ12年、命よりも任務を重んずる気風が、まだ残っていたということだろう。

今回の台風では、関連の情報を知るにはスマホが大いに役立った。また停電の影響を受けないラジオも、内容はともかく、最低限の情報機器としてその有用性を発揮した。

この10年間で普及が進んだLED非常用ランプは優れモノで、照度は高く電池の持続時間も長い。数を増やせば、停電時の暗闇の不安を解消するのに十分役立つ。

長時間の停電は、インフラのうちで電力が最も重要であることを、改めて考えさせてくれた。

電気は、動力源とその制御を担うと共に、情報通信には不可欠だ。電力を失うことは、産業社会のエネルギー源と情報社会の通信手段を同時に失うことであって、国としては戦争、飢饉に次いで避けなければならない事態だ。

為政者が停電を怖れ、発電能力の拡充に努める意味はよく分かる。原発再稼働を推進して、発電能力に充分な余力を持ちたいに違いない。その余力を原子力発電に頼らざるを得ないのは、火力発電の燃料は輸入に依存し、何らかの事情で輸送が途絶えれば、発電所を稼働させられないからだ。

だが原発は、使用済み核燃料を冷却し続けねばならず、そのために必要な安定電源は、原発の稼働で確保し続けなければならない悪循環を断ち切れない。

核燃料廃棄物の最終処理場を予め設備することなく、見切り発車で原子力発電所を全国に配置した結果、3.11以後も脱原発に向かえない。原発再稼働を急ぐのは、配電網の故障による停電が、国の統治システムを揺るがす恐れがあるからで、国家としては相応の判断だろう。つくってしまった以上、発電を止めても、未来永劫保守電力が必要である。原発が原発を増殖させる構図が出来てしまっている。

長期停電は、国民生活にとっても大きな脅威である。だが、国家の安全と個々の国民の自然な生存欲求とは一致しない。誰一人、国土の放射能汚染や自身の放射線被曝を認める人はいない。その危惧があるからこそ、脱原発、反原発を訴える。自然的存在の人間としては、それが当然で正しい。その危惧を払拭できる合理的な解決策は、誰にも出せない。

かつて「ブラックアウト」(マルク・エルスベルグ著)(猪俣和夫・竹内悦子訳)という題名のサイバーテロによる大停電の小説を読んだことがある。テロリストがイタリアとスェーデンで同時にスマートグリッドにサイバー工作をし、ヨーロッパの主要国が何日間も停電状態に見舞われる物語だった。日本では彼の国々とスマートグリッドの送受電システムが異なり、そのようなことは起こらないと言われている。

だが、起こらないと言い続けて3.11原発事故が起こったこの国では、国民は為政者、当局者、学者の「絶対に起こらない」には聞く耳を持てない。自発的に長期の停電に備えておくべきことを、24時間の停電が示唆してくれた。

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