道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

黄葉の渓

2010年10月30日 | 自然観察
久しぶりに〈白倉林道〉を往復した。

白倉川から西俣沢に沿って渓谷の右岸を遡るこの林道は、〈朝日山〉や〈黒沢山〉〈白倉山〉〈中の尾根山〉へのアプローチにあたり、ヤブ山派の通い馴れた道として知られている。

白倉橋で対岸に渡ると、林道は尾根に絡んで高度を上げ、東俣沢上部の林道終点に至る。ゲートから林道終点の〈中の尾根山登山口〉まで約9キロ、標高差は640mほどだ。

登山は好きでも、単調で退屈な林道歩きは苦手という人は多く、私もそのひとり。だが渓流に臨んだ木々が、ひときわ美しい彩りを見せるこの季節の林道歩きは、いっこうに苦にならない。

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今回歩いてみて、この林道の紅葉の相が、此処よりひと尾根南に位置する〈戸中林道〉のそれと、かなり異なっていることに気づいた。この渓は、赤よりも黄が優越している。黄葉の大半は〈カツラ〉の木によるもので、それがこの渓の特徴となっているようだ。

曲がりくねった林道のターニングポイントごとに、箒状に斜上する枝に黄葉を纏ったカツラの成木が立っている。市内でも北辺に位置するこの渓の気温が、信州に多いこの樹の生育に適しているのだろう。

対岸の山腹を覆う針葉樹の、ほの暗い緑によく映えるカツラの黄葉の美しさに見惚れながら、知らぬ間に距離と高度を稼いでいた。

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もちろん赤く色づく樹種も数多くあって、見事な〈ウリハダカエデ〉のほか、〈ヤマボウシ〉や〈ヤマブドウ〉の紅葉も目にした。それでもこの渓では、黄色が赤色を圧倒している。

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ふと山側に目を遣ると、赤石山系ではごく普通に見られる〈フジアザミ〉が、岩屑が積もった斜面に貼り付くように咲いていた。

平坦地に生えているものは、花茎を何本も伸ばして猛々しいほどに茂るのだが、この岩場のものは矮化して、常にない可憐さがあった。

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もっと矮化していたのは〈ホタルブクロ〉で、岩屑の中から草丈5センチほどの高さで淡いピンクの花を着けていた。花の色から、この渓の岩場に春咲く高山植物〈シナノコザクラ〉を連想した。

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林道では、クマの糞らしいものを幾つか見つけた。まだ新しいものもあって、思わずクマ除け用の、ミニカウベルの音を確かめた。

この日は幸運にも、4頭のシカが、山崩れ跡の絶壁をトラバースしているのを目撃した。カモシカでは同様のシーンをよく見るが、シカが急斜面を横断するところは初めて見た。

余談になるが、一ノ谷の源平合戦の折、〈鵯(ひよどり)越え〉の絶壁の頂きから眼下の平家の陣を見下ろした義経が、「鹿も四つ足馬も四つ足、馬で降りられないはずがない」と、70騎の騎馬武者を励まして断崖を駆け降り、奇襲を敢行した逸話が、まことしやかに伝えられているが、どうもこの話は信用出来ない。

平時には騎馬で狩をおこない、騎乗を鍛錬していた当時の武士が、シカとウマの身体的特性の違いを知らない筈はない。この逸話は、傾斜面に適した偶蹄をもつシカと、平担面に応した奇蹄のウマとの違いに考えが及ばない、後世の人の作り話だろう。大方江戸時代の講釈師あたりの潤色かもしれない。

いかに急崖の踏破力に優れたシカやカモシカでも、崖を直線的に登り降りすることは出来ない。スイッチバックを繰り返して登り降る。カモシカが常に往来している絶壁のザレた山腹に稲妻形の模様が現れるのはそのためだ。

勇壮さには欠けるが、実際のところ義経たちは、崖にジグザグに刻まれたシカの通り道を、慎重にトレースして降ったことだろう。西部劇で、インディアンやカウボーイが岩場を降る際の騎乗の仕方のように・・・。

今回はカモシカの姿を見ることはなかったが、ウシ科のこの動物、どことなく村夫子然としたところがあって、山で会うと妙に親しみを感じる。特別天然記念物として保護されているはずだが、狩猟対象でありながら激増しているシカと較べると、なぜかあまり増えていないのが気懸かりだ。

余談から、タイトルと関係ない脇道に逸れ始めたので、このへんで・・・。

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