道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

隔世の感

2024年05月25日 | 随想
海外からの旅行客にインタビューするYouTube動画を視聴していると、いかに社交辞令とはいえ褒め言葉ばかりで、現地人としては面映ゆく、時には身が竦む思いがする。

曰く「礼儀正しい」「治安が良い」「親切で温かい」「社会が好ましくオルガナイズされている」「自然景観が美しい」「都市にゴミが見当たらず清潔」「公共交通機関が整備され運行が正確」「食べ物が安くて美味しい」「公共のトイレが清潔で無料なのは驚き」等々、私たちには耳障りの好い賛辞ずくめである。視聴者には、欣快この上ないコメントの数々・・・

何事も初心のうちは素敵に見えるもので嬉しい評価と思えるが、有頂天になるわけにはいかない。訪日客も追々事情に通じて来ると、色が褪せて見えて来るのが普通だから、ある程度リピートしている人たちにインタビューしてみないと、的確な意見は聴けないだろう。

私たちが当たり前に思っていることが、随分過大に評価されているように思う。得てして長所の裏には、短所が隠れていることがあるものだ。
それでも、歴史や文化と、現実社会の各面で、大きな隔たりがある国々から来た人たちの、私たちの国の風土と民族への好感は、素直に感謝したい。

私たちの国や国民が、長い間仰ぎ憧れて来た欧米先進国とその国民への賛辞が、今ここに来て我が方にどっと向けられているのは、老爺のような戦中生まれの人間には、同じ国のことかと、隔世の感に面喰らう。

観光客から見ると、魅力的な国というものは、総合的にバランスがとれていることが肝腎だろうから、その点で及第しているのは、戦後の国と国民の営みが認められたということだろう。

今日、母国の立ち遅れ、不備を嘆く観光客の声は、半世紀前までのわが国の海外渡航者の声だった。何処をとっても敗戦後の日本は、あらゆる面で、欧米に立ち遅れていた。
その頃の日本は、戦争中の「産めよ!増せよ!」の影響で、学童が爆発的に増えた時代、通っていた中学校は、在校生が2000名を超えていた。
外貨が不足し、海外への持ち出し額は厳しく制限され、1ドル360円の固定レート。輸入雑貨は舶来品と呼ばれ、おしなべて高額だった。反面、何よりも戦後復興を最優先していた当時は、国を挙げ輸出に全力投球、「輸出立国」「加工貿易」という言葉は耳にタコが出来るほど聴かされ、小学生でも知っていた。

今日わが国の有力輸出企業は強大で、世界中に生産拠点を持つ。為替の変動による影響を受けにくい体質になっている。
現下の政府はインバウンドの増加を悦んでいるだろう。だが国というものは、いったん自然景観や歴史遺産などの観光資源に依存する道を求めると、衰退の途を辿ることが歴史的に証明されている。

一次産業と二次産業、生産分野に活力が失われると、観光産業に依存する体質になる。国民の意識は知らず知らずのうちに、創出するより待ち受ける体質に変わる。これが最も怖いことである。観光の対象は、本質的にイノベーションやリニューアルと無縁のものである。

歴史資産や自然資産で外貨を稼ぐ観光立国の国民は、新たな付加価値の創造で生きる意欲を失いがち。インバウンドの盛況を悦んでいると、必ず将来に禍根を遺すだろう。
ギリシャ・トルコ・スペイン・ポルトガル,エジプトなどの観光大国は、総じて工業製品の生産活動への活力が伸びない。
努力せずとも価値が存在し、顧客に恵まれ裕福に暮らせると、人間というものはどうしても勤勉から遠ざかりがちになる。観光はモノを創らないし、新たなサービスを生まない。其処に依存しないことが重要だ。

目下、円安の悪影響は庶民の生活にのしかかりつつある。日本丸の舵取りは、適宜適切に行われているとは思えない。賞賛が実態に即しているなら嬉しいが、どうもそうは思えない。
一体誰がこの国の舵を握っているのか?サッパリ判らない。



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