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道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

ティラノサウルス

2017年08月19日 | 人文考察
ある時、東行するJRローカル線の電車に乗っていた。 対面横座シートの車両で、通勤時間帯を過ぎていたため、車内の乗客は少なく、疎らに座っていた。

ある駅で、容姿の佳い妙齢の白人女性が乗り込んできて、私の向かい側のシートに腰かけた。カジュアルな服装が、遠来でなく沿線に居住していることを想像させた。

どこの国の女性だろうかと思いながら美貌に見惚れていたら、やおら彼女はバッグから鏡をとりだし、メークの修整をし始めた。口紅を引くため、やや顔を下向き加減にして、鏡の向こうで口を大きく開けた。

私と彼女とは、正対の位置からひとり分ずれていたので、彼女の下顎の深い馬蹄形の歯並みが、一瞬見るともなく見えてしまった。刹那、何故か私は、肉食恐竜のティラノサウルスの巨大な下顎の歯列を連想して、恐怖に全身が竦み上がった。

平面的な顔立ちで、口蓋の奥行きが浅く、口幅の狭い我々北東アジア人に較べ、西洋人の貌は立体的で、口蓋の奥行きが深く、口幅も大きい。当然、開口したときの上下の顎の角度は大きく、開口域は広くなる。

白人女性の下顎の長大な歯列を直接視認したのは、この時が初めてだった。本来、歯医者さん以外の人間には絶対に見せない部分だろう。笑って口辺が横に伸びるのとは違う。口が縦に大きく裂けるのだ!地上の動物では、爬虫類だけがもつ特徴である。

容貌が美しいだけに凄味が強調され、強烈なインパクトがあった。それまで魅力的に見えていた深い眼窩の大きな瞳までもが、獲物を狙う貪婪冷酷な肉食恐竜の眼と重なって見え、再び彼女の顔をまともに見ることができなかった。

好い齢をして鼻の下を伸ばして異国の美人を眺めていたのがいけない。思いもよらず、怖いものを見てしまった。

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