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死神ファンタジー「DEATH TAKES A HOLIDAY」

2023-06-21 22:12:25 | 宝塚
死神ファンタジー「DEATH TAKES A HOLIDAY」宝塚月組シアターオーブ

 6月12日から公演予定だったが、コロナ感染者が出て初日から中止。中止期間が延びて、どうなるのか、もともと2週間ちょっとの短い公演期間、最悪吹っ飛ぶかもと心配したけど、19日から無事に開幕しました。パチパチ!私は初日から三日間見ることができました。パチパチ! 初日のカーテンコールご挨拶で月城さんが「私たちみんな元気です!」と言ったのは、ファンがあれこれ心配しているのをわかっていたんでしょうね。
 作品は2011年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカルで、映画化もされてるけど、映画は舞台版とはかなり違うようで、今回は舞台版からの宝塚化。「ファントム」や「グランドホテル」の作曲家が作った、とてもクラシカルなザ・ミュージカル!という感じの作品。なかなかの歌唱力を要求される楽曲ばかり。

 ひとを死に導く死神が、その仕事に疲れ果てて、突然「休暇」を取ることにしたという物語。第一次大戦から、スペイン風邪が大流行したあとという時代設定、何も疑問を持たずに大量の死を扱い続けた死神が、自動車事故で死ぬはずだった若い娘の生命力に触れて、生命と死、愛を知りたいと、娘の親の屋敷に「ここで休暇を過ごさせてくれ」とやって来る。期間は二日間。そして娘と恋に落ちた死神。愛を知った死神は、彼女をどうするのか。

 一幕はコメディ、二幕はシリアス、ラストは予想外。
死神(月城かなと)の扮装が凄い。恐ろしいカラスの怪物のような仮面が顔の半分以上を覆っていて、黒と灰色ずくめの衣装、黒い翼のようなマント、長い骸骨の指、悪魔のような姿で、ちょっと猫背にしてるせいもあって、登場時、これ月城さんなの!?って感じ。私はこの死神の扮装がとっても気に入りました!物凄くてかつ魅力的、お似合いです!
 CSのタカラヅカニュースで初日映像が放送されたのを見たら、この死神姿が一瞬も入ってなかったのです。これ、出しちゃいけないものなの?
 この姿で、真夜中、屋敷の主人(風間柚乃)(一応、公爵なのね!風間くん)の部屋に現れます。死ぬほど驚く公爵。二日間、この屋敷に客人として泊めてくれと要求され、というか脅迫されて、しかたなく承知します。死神は、まもなく自殺する予定の「ハンサムな」ロシアの皇子の体を借りてくるからよろしくと消え去って、執事と二人オロオロしているうちに、「ハンサムな」皇子として白い軍服姿でさっそうとやってきました。午前2時。
 こうして一幕はほぼコメディで、公爵と家族、執事、使用人とのやりとりもテンポよく笑わせる運び方。特に翌朝、死神がピンクのパジャマにガウン姿で、初めて食べる目玉焼きに感動したり、自分が休暇を取ったために、世界中で死者が一人も出ていないことを新聞で確認して喜んだりするシーンは、はしゃいで歌い踊る死神が明るくて楽しい。月城さんはスキップしたりベッドではねたりします。パッとカーテンを開けて日差しを浴びたところで、エッ、日を浴びて平気なの!?と一瞬思ってしまった。吸血鬼じゃないのね。
 公爵の娘グラツィア(海乃美月)は前日に婚約したばかりなのに、死神の皇子を見て一目惚れ?たちまち婚約解消しちゃう。このグラツィアという娘は、この地に残る「洞窟の恋人」の伝説に憧れている。グラツィアの曽祖父の時代、曽祖父の娘は身分違いの若者と恋をして、許されず、二人で崖から飛び降りて心中してしまった。二人が逢っていた洞窟には、娘が残した日記が飾られた祭壇が作られている。グラツィアは小さいころからこの洞窟に入りびたっていた。
 一日目の夜、惹かれあっていることに気づいた二人は、この洞窟で結ばれる。
 
 この伝説を皇子に話して聞かせるグラツィアがとっても楽しそうでうれしそうなのが、私は違和感があって不思議だった。だって、心中話ですよ。グラツィアにとって、この恋人たちの物語は究極の憧れなのね。彼女の考える理想の人生とは、「自分の思いのままに生きて死ぬ」こと。グラツィアは子どものころから「死」に対する憧れがある。だから、心中を悲劇だと思っていない。
 二幕は、愛しているからグラツィアを今夜連れていくと言う死神に対して、愛しているなら娘の未来を、続いていく命を奪わないでくれと懇願する公爵の密度の濃いシーンや、グラツィアの母(白雪さち花、熱演)の戦死した息子への思いを見せる哀切なシーンがあって、シリアスな空気に。
 夜中の12時にはここを去る死神。グラツィアは連れていかないと公爵に約束し、つらい別れの時が迫る中、もう少しだけでもここにいたい、人として彼女と生きていたいと切々と歌い上げる死神の月城さん、歌のクオリティがまた上がってる。ああ、これはラストは愛ゆえの別れになるんだろうなぁと悲劇の感触が強いのは、もともとのブロードウェイ版もそうなのか、もしかして「月城かなとの属性」のせいか?
 12時の鐘が鳴りはじめる。愛しているからこそ君を置いていくのだと言う死神に追いすがるグラツィア、彼女の「あなたがどう思おうと私はあなたを愛しているの!」という言葉の破壊力!私たちはずっと二人で永遠に生きていくのよ!と譲らない。
 ついに死神は見せたくなかった正体を見せる。あの物凄い姿を。「あなた、死神なのね!」グラツィア、まったく怯みません。ぐいぐい抱きついていって、ついに彼女の愛の力によって、死神は真っ白な王子様衣装に変身!(羽まで白くなってる)。幸せそうな二人、長い階段を手を取り合って昇っていきつつ、幕。

 予想外でした。この結末はブロードウェイ版のままらしいのですが、私は知らなかったので、びっくりしました。見た目ハッピーエンドだけど、これってハッピーなの?親たちの嘆きは?息子を戦争で奪われ、また娘も奪われるのかと死神に食い下がった父の悲痛な思いは?しかも、誰もグラツィアが死神を押し切ったとは知らないんだから、死神を恨むよねえ。あれほど約束したのにと、人生の最後のときまで、死神を恨み続けるんじゃないか。 グラツィアという人物、1ミリも悩まないんですよ。死神でさえあれほど悩んだのに。彼女は、親であれ婚約者であれ、ひとの気持ちをおもんばかったりしない。
 戦死した兄に対しても悲しんでいるところがないのが変な感じがしたんだけど、グラツィアがはじめから「死」に憧れていたと考えると納得できる。戦死するなんて、なんてロマンチックなの!と思っていそう。そんな、心中した恋人たちに憧れて育った彼女の前に、「死」そのものがステキな王子様の姿で現れたわけです。そりゃ、こうなりますわね。
 いろいろ書いちゃったけど、死神ファンタジーとして見れば、全体的に楽しい舞台です。衣装もみんな素敵で、大がかりなセットは人力で動かしてるそう。オーブは盆がないんだそうで、ないのに盆がまわってるんです。舞台の上に板を敷いて回してる?すごいね。
 歌はどれもいいし、月城さんが「音楽学校以来15年ぶり」にやるというタップダンスの見せ場もあります。全体的に月城さんがかわいい!どうしました?というぐらい、全体的にかわいいです。
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