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「フリューゲル」「万華鏡」月組公演

2023-08-31 23:57:14 | 宝塚
「フリューゲル」「万華鏡」月組公演
宝塚大劇場に遠征してきました。8月29日30日の二日間。

 お芝居は「フリューゲル~君がくれた翼」あらすじを読んだときは、東西冷戦の時代、ベルリンの壁崩壊という背景なのにハートフル・コメディというので、これ大丈夫?と思っていたけど、まあまあの人情喜劇になってた。
 月城さんは東ドイツの軍人ヨナス、平和コンサートのゲストとして西ドイツからやってくるポップスターのナディア(海乃)の警護を任命されたが、堅物のヨナスと自由奔放なナディアは衝突してばかり。しかし、幼いころに戦犯として拘束された母と歌った懐かしい歌をナディアが歌ったことから打ち解けていく。という二人の状況に、コンサートをぶち壊そうとする秘密警察(鳳月)、民主化を叫ぶ若者たちの活動がからむ。
 月城さんはテンポのいいコメディエンヌぶりを発揮して、ナディアと衝突するあれこれの場面が楽しい。海乃さんに、西側のスーパーアイドルの若い娘という役はやっぱりちょっと無理がある。アイドルは歌うま若手娘役たちに配役して、海乃さんは彼女たちの辣腕マネージャー役だったら違和感なかったと思うけどね。
 秘密警察のヘルムート(鳳月)は、東西ドイツの統一なんてとんでもない、ベルリンの壁は死守、社会主義を守れ!という信念の持ち主で、壁が壊された時、自死してしまう。「レ・ミゼラブル」のジャベール警部の役どころですね。自分がただ一つの正義と信じてきたものが覆された時、自分自身を否定し抹消してしまう。冷徹に若者たちを取り締まってきたヘルムートと、若者たちの味方だったヨナスとの対比がもう少し出てれば。ヨナスとヘルムートのデュエットがほしかったよね。立場の違う男二人が、それぞれの思いを、声を重ねて歌う曲。「応天の門」のときにも同じことを思ったんですが。今回、ナディアとヨナスのデュエットの場面がちょっと長いなと感じてしまったので、よけいそう思った。
 コンサートのマイクに仕掛けられた爆弾をどうやって取り上げるかとか、わりとマンガチックな展開になってたり、とんちきな部分はあるけど(演出がとんちきで有名な斎藤吉正先生)、あまり気にならなかった。風間くんが軽快な役を楽しそうにやってたり、梨花ますみ組長がみんなと一緒にガシガシ踊ってたり(けっこうなお年のはず)。そしてヨナスの母の白雪さち花さんが「DEATH TAKES A HOLIDAY」に続いて、泣かせる。

 ショーは「万華鏡百景色」ばんかきょうと読ませる。演出の栗田優香先生の大劇場デビュー作。これまでバウとか別箱で芝居でやってきて、大劇場で初のショーを作るというのは、やはり大きなことのようで、出演者のほうも力が入るものらしい。とても凄みのある、特異なショーになっている。
 東京を舞台に、江戸時代から現代までの時代を移りながら、結ばれなかった花火師(月城)と花魁(海乃)が転生しては出会い、すれ違いを繰り返していく。二人を結びつけているのは、花火師が作った万華鏡の付喪神(鳳月)。
 衣装、こしらえが凝っていて、江戸時代の場面も付喪神たちも、着物から出発したアレンジという感じ。花組の「元禄バロックロック」に似ているのだが、花組だとパーッと明るいのが、月組だと妖しくなるのがおもしろいところ。付喪神たちの黒い衣装も、袴ではなくロングスカートで、烏帽子のようなかぶり物をかぶって、赤い番傘を持つ。群舞での赤い番傘の使い方も秀逸で、この集団の衣装を考えついた時点で大成功?
 最初、鳳月さんは暗い中、オケピットから銀橋に上がってきて、上がりました!サッ!と照明が当たるので、えっいつのまに?と思う。舞台奥のセリに月城花火師が登場し、銀橋センターに一人残った鳳月付喪神が客席に背中を向けて、正面から二人が向き合うところがあって、緊張感があってぞくぞくする。
 鹿鳴館の舞踏会、戦後の闇市、現代の渋谷と転生した二人が出会いながら時代が変わっていく。月城さんはどの場面も素敵だけど、私が一番気に入ったのは闇市のドン。この衣装がまた、大きな花札の柄のマントを片身にかけて(襟にはファー付き)バカ殿様でも穿かないようなキンキラの袴、オレンジ色のサングラス!成り上がりのドスの効いた声で、取り締まり警官の風間くんとはツーカーの仲、今日もワイロを渡して仲良く歌って踊る。娼婦になった海乃さんと出会いはするが、彼女は米兵と去っていく。「明るい諦念のブルース」~「大砲の歌」が最高で、この場面すごく好き。
 現代の渋谷では、月城さんはカラス。無表情に行きかう人々を見下ろすカラスたち、黒い傘の人と透明な傘の人が混ざっているのは、死と生を表す細かい設定があるようで、舞台の真ん中だけでなく、あちこちでいろんなドラマが展開していて、全部見るのが大変。
 今回、この場面だけでなく、群舞や群衆芝居が見事な構成で、月城さんもオペラでガン見したいけど全体も見たいし、大変なんですよ。
 こうして通したストーリーの中に、芥川龍之介の「地獄変」が挿入されている。ここは鳳月さん扮する芥川がそのまま作中の絵師になり、例の、火をかけられた車の中の娘を見ながら絵筆を取る狂気の姿が演じられる。この場面がかなりのボリュームで、強い印象が残るので、なぜこういう構成にしたのか、演出家がどうしても入れたかったのだろうが、ちょっと不思議ではある。でも、鳳月さんが魅力的なの。
 ダークで派手で重さがある作品で、栗田先生の持ち味と「月城かなとの月組」の持ち味がぴったり。花火もキーワードということは、どんなに大輪の花火が開いても一瞬で消えてしまうもの。あとには、よりいっそう暗さを増す夜の闇が、というところか。
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