よむよま

よむ・よまない、それから。

「猩々」十二月大歌舞伎

2023-12-17 14:02:00 | 見る
十二月大歌舞伎第三部を見てきました。
 舞踊「猩々」と「天守物語」の二本立て。わりと客の入りがよかったのは「天守物語」に玉三郎が出るからだろうと思いますが、私のお目当ては舞踊「猩々」、勘九郎と松緑の猩々、種之助の酒売り。
 猩々とは、水中に棲む霊獣だそうで、能の大口袴の衣装で、赤の毛をかぶっています。能衣装のこしらえの勘ちゃん、まあ美しいこと!怪異ではあるので、ちょっと酒呑童子を思い出しますが、あのぞわぞわ怖い感はなく、お酒大好きで明るくて、お酒を飲ませてくれたお礼に、酒売りに汲めども尽きぬ酒壺を与えて、上機嫌で波間に去っていくというストーリー。
 三人ともぴしっとしていて良い舞台でしたが、わたくし、勘ちゃんガン見状態でしたので、ほかの二人はあんまり見てない(笑)。勘九郎さんがともかく端正でありました。座っている形もよくて、波とたわむれる(たぶんそんな振付)白足袋の足先までも美しい。最後は花道を猩々二人が腰を落とした横向きで(2番プリエですね)サッサッサッサと引っ込んでいくの、カッコよかった。
 「天守物語」は非常に整った舞台でしたね。不足のない、えーなにこの人!というところのない舞台だなという印象でした。
 話題は、演出の玉三郎が、本来は若手がやる妹的な姫役で出ること。玉三郎は持ち役を若手に譲っていっていて、助六の揚巻、琴責めの阿古屋、天守物語の富姫、それぞれ若手に譲ってやらせているのですが、玉さまは譲っても出たがるのよね。助六では母親役、阿古屋ではわざわざ男の侍の役で出ちゃってたし、今回は富姫の妹的な亀姫で出ている。七之助と玉さまが並んで、「お可愛らしい!」と頬寄せあったりしてる図は美麗ではありますけど、やはり妹分には見えないですよ。40歳と70代ではお肌の張りも違いますしね。玉さま充分お可愛らしいですけど、どうしても貫禄出ちゃうしね。
 七之助富姫は凛々しい。玉三郎富姫の、この世の者でない感じは独特のものなんだろうな。普通の人じゃない感じね。
 虎之介さんの姫川図書之助は、大変きちんとしていて、佇まいで見せてた。あらーいい男!ってわけにはいかないけど(それは難しいのよ、人を選ぶ)、富姫が心惹かれるのに違和感はなかったです。
 勘ちゃんも出てます、二役です。一つは舌長婆で、真っ赤な長い舌で、亀姫がおみやげに持ってきた城主の首を舐めまわします。一つは幕切れに出る、獅子頭を彫った工人で、これも老人なので、二役やってるのが婆さんと爺さんというのも珍しい。勘ちゃん、年寄り役うまいのよね、三谷さんの「高田馬場」で爺さんで登場したとき、声を出すまで勘九郎とはわからなかった。
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読書感想文「雪の階」奥泉光

2023-12-02 00:00:14 | 読む
「雪の階(きざはし)」奥泉光 中公文庫

 奥泉光作品は「ノヴァーリスの引用・滝」を以前に読んだ。そのときは文章に面食らってしまって(読んでいて、これってミステリーとなってたよね?と思ったりして)、なかなか読み進まなかった記憶があったのだが、この「雪の階」は文章が魅力と感じて読めてしまったのが不思議。たぶん、このまだるっこしさがこの作家の特徴なんだろうと思うので。A地点からB地点に行くために始まった一文が、次々と花を咲かせて、枝が伸びて、B地点に着くまでに違う景色が広がってしまう。「カラマーゾフの兄弟」を読んだときの印象を思い出した、なんとなく近い。
 「雪の階」は昭和維新2.26事件に向かう時期、伯爵令嬢とその友人の女性が中心の人物、二人がヒロイン。友人といっても、令嬢が幼いころの「おあいてさん」と呼ばれるお友達。現代だったら幼なじみの親友という役どころなのだが、時代の身分差もあり、人物の性格もあって、お互いに「そこは言わないでおこう」と考える部分があるのが(しかも、それが一番重要な核心なのが)まだるっこしさが増して、おもしろいのだ。読んでいて、そこを言おうよ!と思わなくもないのだが、言わないのが重要。最も重大な謎解きが、まったく共有されないで終わる。謎解き小説、ミステリーではあるのだが、これミステリーだったんだ!と結末に来て、ハタと思い出すような構成なのだ。
 令嬢の学友の女性が心中するという事件が話の発端で、令嬢は疑いを持ち、さまざまな手段・コネを使って調べはじめる。というと、はじけたお嬢様のようだが、見た目は全然そうではなくて、ほんとうに深窓のお姫様、親にも逆らわず、自分の属する階級のありようにも逆らわない。
 協力を頼まれた友人のほうは、この時代でも報道カメラマンとして生きようとしている職業婦人で、かなり活発、短髪で洋装。
 心中事件の相手の男性が軍人で、令嬢の兄も軍人で、令嬢の父・伯爵は「天皇機関説」を徹底的に批判している立場ということで、フツウに2.26に向かっていく(天皇陛下に忠節を尽くす方向で革命を起こす)筋立てと思いきや、いまの天皇は廃すべきだという思想が出てくる。心中事件の裏を探っていくうちに突き当たるのが、令嬢と兄の亡母の家系が特別な血筋であるという説。これを強烈にとなえているのが亡母の弟、つまり兄妹の叔父。この叔父は我が家の血こそ「神人」の子孫である純粋日本人の血であって、ほとんどの日本人(天皇も)は「獣人」と混血した汚れた血であるから滅びなければならないと主張している。そして、兄妹はその家系の中でも霊力にすぐれた存在で、特に妹の令嬢は強い霊力を持ち、未来が見えると。
 令嬢が、ここにいながら、霊視した場所に行ってしまう描写がしょっちゅう、ごく自然な展開として出てくるので、読んでいるこちらもだんだん、彼らが「神人」であることを受け入れて考えるようになってしまう。途中からこの令嬢が、まったく躊躇なく、恋でも愛でもなく、いろんな男と関係を持つようになっていくのも、なんとなく「神人」であるがゆえかと思ってしまう。そう思うようになっていって、その世界にすっかり浸ってしまった最後に、それをひっくり返す冷静な謎解きが出てくるのだ。これミステリーだったんだ!と、突然目が覚める瞬間。
 事件の謎は解けても、むしろ令嬢の性格や考え方、態度、生きる姿勢が、より一層謎になる。謎のまま終わる。文章力の強さに引っ張られて、別次元に連れて行かれてしまって、おもしろかった。
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