硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 38

2021-04-30 20:20:50 | 日記
ふざけるにもほどがある。この子は私をバカにしてるのかとも思ったが、感情的になってはいけないと自戒し、

「バカ言っているんじゃありません。ふざけが過ぎると担任の先生に報告しますよ。」

と、牽制し自制を求めた。しかし、彼は一向に引こうとしなかった。

「僕は至って真面目です。もし、先生に恋人がいらっしゃるのなら、先生の事を潔く諦める事が出来るから、恥を忍んで窺っているのです」

「どういうことなの? 」

要領が掴めず只々困惑していると、彼は意を決して語彙を強めた。

「水野さんの事が好きなのです。初めて会った時からずっとなのです。永遠に秘めておこうとも思いましたが、気持ちを抑える事ができなくなってしまったのです。」

真っ直ぐな目で私を見つめる。異性から好きと言われている。冗談以外の何物でもない。
今までなら。

彼は、膝の上に拳を作り、私の返事を待っている。

「・・・噓でしょ。」

「嘘ではありません。」

「・・・私のどこがいいの。」

「全てです。」

迷いのない返事に、私は無力だった。長い年月を費やした堅牢無比な城壁を、彼は打ち破るつもりなのか。

「バカを言わないで。怒るわよ。」

「なぜ、怒られなければいけないのですか? 僕は先生の事が好きなだけなのです。」

「いい加減にしなさい! 」

「いい加減ではありません。」

彼は勢いよくベッドから立ち上がると、緊張した面持ちで一歩踏み出し、私をじっと見つめた。

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