硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 39

2021-05-01 21:06:39 | 日記
「分かりませんか! 僕がどれほど先生の事を好きなのか! 」

余りの圧力に目線を逸らすと、ズボンの前が隆起していた。私は恥ずかしくなり、さらに目線を落とし、

「・・・わっ、分かりません。そもそも、私の方が年上でしょ。同級生や下級生に可愛い女子はたくさんいるでしょ。」

自分でも驚いた。咄嗟に発した訳の分からない言葉に。
こんな狼狽の仕方は初めてだろう。しかも年下の男子にからによってである。
チャイムが鳴る。かつてない緊張感から逃れられると安堵した。
すると、彼は、後ろのポケットから真っ白な封筒を取り出した。

「僕の想いがしたためてあります。必ず読んでください。ありがとうございました。失礼します。」

年下だというのにちゃんと自制している。
その振る舞いに驚いていると、礼儀正しく一礼して、足早に部屋から出ていった。

封書の手紙。これは、ラヴレターと言われる物だろう。冗談にも程がある。
今すぐにでも開封して内容を確認したい。しかし、もし、からかわれているものだとしたら、我を忘れて逆上してしまう恐れがある。それならば、冷静になったところで開封した方がダメージは浅くなるはずだ。
今すぐにでも確認したいという欲求を抑え、手に持った封筒を、そのまま自分のカバンの奥底に押し込んだ。

その日の私は、終日ふわふわしてた。あの場面を何度も思い出しては何が起こっていたのかを考えた。しかしその頃の私には全く理解できることが出来ず、周りに悟られないよう平静を保ち、無難にやり過ごす事だけで精一杯だった。

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