竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

石一つ堰きて綾なす秋の水 深見けん二

2019-09-04 | 今日の季語


石一つ堰きて綾なす秋の水 深見けん二


遠い源流から
時間をかけて流れくる小石
時には何年もかけてたどりついたような大きな石も
関の前におりかさなっている
その石の隙間をぬって流れる秋の水
流れる水と澄んだ空気に彩られて
日に綾なす石のそれぞれの美しさ
作者の発見の感動が読者にダイレクトに迫って来る
(小林たけし)

【秋の水】 あきのみず(・・ミヅ)
◇「秋水」(しゅうすい) ◇「水の秋」
秋のころのよく澄みわたった水。川の水に限らず、湖沼・池はもちろん器の中の水を詠むときなども使う。触れてみれば思いのほかに冷たい。


かろうじて透明であり秋の水 杉浦圭祐
やや重くなりし秋水汲み上ぐる 野田哲夫
十棹とはあらぬ渡しや水の秋 松本たかし
水の秋子鷺脚まで透けて佇つ 稲葉茜
生も死も愛も一会や水の秋 鶴岡しげを

石亀の足をひらひら水の秋 勝又民樹
秋の水水琴窟の音となり 堀良子
秋の水湛える地図から消えた村 黒田紅玲
秋の水自在に彩を得て愛し 戸田明子
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ある秋の日の弾痕の鉄兜 和知喜八

2019-09-02 | 今日の季語


ある秋の日の弾痕の鉄兜 和知喜八

これは一物仕立のようで二物衝撃の句ととりたい
上五中七を助詞の」で」つなぐことに作者の思いを感じる
戦後まだ日の浅い時期での作だろう
鉄兜の弾痕は作者の戦争への慙愧に相違ない
なかなか消えるわけもない
(小林たけし)



【秋の日】 あきのひ
◇「秋日」 ◇「秋日影」 ◇「秋日向」
秋の一日にも、秋の日差しにもいう。秋の日は暮れやすく、どこかあわただしい感じがある。初秋の頃は夏を引きずったような強い日射しも、次第に和らいで行き、空気も澄んできらきらと輝くようである。立秋から晩秋までひろく示すが「秋の日輪」のみを示すこともある。


例句 作者
「生きている」自分を探す秋の景 佐古澄江
「革命」のピアノ鳴りやまずホテルの秋 川崎幸子
あざやかに昃るを秋の喪としたり 松澤昭
あんまり笑うから対角線に秋 早川里子
いつよりか秋の歩幅になりにけり 根岸敏三
おんなじに秋のふらここさらさら砂 伊東類
かの秋も広島の川澄みたるか 後藤章
くずし字を詠まんと秋の白秋碑 吉本孝雄
くろがねの秋の風鈴鳴りにけり 飯田蛇笏
こうのとり翔べり野性の秋拡げ 森田透石
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すかすかな原爆ドーム秋の風 栗林浩

2019-09-01 | 今日の季語


すかすかな原爆ドーム秋の風 栗林浩

八月の思い季節がゆくと秋の気配が濃厚になる
広島の慰霊の式典のあの賑わいも
かききえてくる

原爆ドームの剥き出しの鉄骨の丸屋根は
相変わらず痛々しい面持ちだが
そこを秋風が吹き抜けてゆく

措辞にある「すかすか」は
景にも人心のうつろいにをも現していて共感する
作者の深い哀しみ、憤り、諦念をも感じさせている
(小林たけし)


【秋の風】 あきのかぜ
◇「秋風」 ◇「秋風」(しゅうふう) ◇「素風」(そふう) ◇「金風」 ◇「鳩吹く風」 ◇「秋の初風」
初秋から晩秋までの秋風一般をいう。日々冷気を加えてゆく秋風は、身に染みてそこはかとなく哀れを誘うとして、古来詩歌に詠われた。色に配して白(無色)、すなわち「素風」、五行(木火土金水)に配して「金風」ともいう。秋の到来を告げる涼風を「秋の初風」といい、作句例では秋の初風を指して秋風ということも多い。


ああと言ふもあつと思ふも秋の風 小檜山繁子
あきかぜのふきぬけゆくや人の中 久保田万太郎
あきかぜの明日は豆の葉を吹かん 髙野公一
あきのかぜ水筒になり天に鳴り 片山桃史
あとがきは秋風に埋めてもらう 諏訪洋子
いちまいの小皿の上の秋のかぜ 津沢マサ子
いもうとの乳房ふたつの秋の風 久保純夫
お先にどうぞたちまちに秋風す 松澤雅世
されど空の藍に病みけり秋の風 大井恒行
しんがりは秋風となる葬の列 鍬守裕子
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