いろいろの枕の下を野分かな 加藤郁乎
いろいろの枕
これが不思議な句意の要だろう
読者に委ねる作者のしたり顔が浮かんでくる
作者はひとり寝の寝所にいて
来し方の諸々を想起している
外は野分の風が吹き渡り雨戸の音が激しくなってくる
作者は微動だにしないで
いよいよ来し方の邂逅、別離を想起するのだ
(小林たけし)
【野分】 のわき
◇「野わけ」 ◇「野分晴」 ◇「野分後」(のわきあと)
雨を伴わない秋の強風。草木を吹き分けるほどの風というのでこの名がおこった。野分のあとはからりと晴れるが、秋草や垣根の倒れた哀れな情景が見られる。「秋の風」より激しく吹く。
例句 作者
あなうらのひややけき日の夜の野分 桂信子
あをあをと瀧うらがへる野分かな 角川春樹
なんと云ふさだめぞ山も木も野分 細谷源二
アフリカの縞馬迷う野分かな 田井淑江
オリーブは眠れる木なり野分だつ 浦川聡子
ハルモニの後ろ手に立っていて野分 橋本直
モンゴルの野分の音か馬頭琴 今泉三重子
ヴィバルディの音を捉へてゐて野分 加藤瑠璃子
五十鈴川に手を浸しゐる野分かな 江口千樹