真二つに折れて息する秋の蛇 宇多喜代子
この高名な作者の句としては特異な部類に見える
実景からの作とみたい
枝に二つ折りにぶら下がっていつ蛇をみた
作者はそのまんまを一句とした
穴に入る寸前の蛇
息継ぎのなみうつ腹を見逃さばい
なんの仕掛けもない客観写生の秀句とみたい
(小林たけし)
【蛇穴に入る】 へびあなにいる
◇「秋の蛇」 ◇「穴惑い」(あなまどい) ◇「蜥蜴穴に入る」(とかげあなにいる) ◇「蟻穴に入る」
蛇は晩秋になると穴に入って冬眠する。俗に秋の彼岸に穴に入るといわれるが、実際にはもっと遅い。数匹から数十匹が寄り集まって来て、穴の中で絡み合って冬を過ごす。
例句 作者
穴まどひ身の紅鱗をなげきけり 橋本多佳子
穴に入る蛇一息に尾を曳けり 棚山波朗
からまりてゐても冷たき穴惑 金子青銅
蛇穴に入るまつ逆さかも知れず 浦野芳南
フォッサ・マグナの南端を秋の蛇 原田 喬
蛇穴や西日さしこむ二三寸 村上鬼城
吹き晴れの火の島にゐて穴まどひ 鳴瀬芳子
ページ繰る音の軽くて秋の蛇 赤野四羽
全天が来て咬みしめる秋の蛇 高岡修
天国の光のごとし秋の蛇 大石雄鬼
山の日はずきんと離れ秋の蛇 大坪重治
秋の蛇人のごとくに我を見る 山口青邨
秋の蛇去れり一行詩のごとく 上田五千石