竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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雨はじく傘過ぎゆけり草餅屋 桂 信子

2019-03-04 | 今日の季語


雨はじく傘過ぎゆけり草餅屋 桂 信子

草餅屋だから、そんなに大きな店ではない。店の土間と表の通りとが、そのまま地つづきになっているような小さな店を想像した。観光地に、よく見られる店だ。外は春雨。作者が店内で草餅を選んでいると、傘に雨粒を弾かせながら、草餅など見向きもせずに通り過ぎて行った人がいたというのである。雨を弾く傘ということは、コウモリ傘などではなくて、油紙を張った昔ながらの唐傘だろう。それもこの句の場合には、油紙の匂いがプンと鼻をつくような新しい唐傘が望ましい。草餅に春を感じ、通り過ぎて行った人の傘の音にも春を感じと、この句は春の賛歌に仕上がっている。外光的には暗いのだけれど、だからこそ、かえって春の気分が充実して感じられる。草餅は、大昔には春の七草の御行(母子草)を用いたとも聞くが、現在では茹でた蓬(よもぎ)を搗き込んで餅にする。子供のころに住んでいた田舎は蓬だらけだったから、草餅の材料には不自由しなかった。よく食べたものだが、草餅のために摘んだ程度で息絶えるようなヤワな植物ではない。こいつが大きくなると強力な根が張ってきて、引っこ抜こうにも簡単には抜けなくなる。農家の敵だった。草餅を見かけると、つい、そんなことも思い出される。『草樹』所収。(清水哲男)


【草餅】 くさもち
◇「草の餅」 ◇「蓬餅」
蓬の蒸した葉を入れて搗いた餅。これで餡を包んだのが蓬餅。昔は蓬の代りに母子草を用いた。

例句             作者

草餅や川ひとすぢを景として 鈴木真砂女
草餅を焼く天平の色に焼く 有馬朗人
草餅やもとより急ぐ旅ならず 角川春樹
草餅や足もとに著く渡し舟 富安風生
草餅や川に栄えて過ぎし町 川門清明
草餅の色濃きを食み雨ごもり 岡本 眸
助六のうはさあれこれ草の餅 久保田万太郎

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