竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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冬遍路と合掌し合ふお達者で たむらちせい

2018-08-21 | 今日の季語


冬遍路と合掌し合ふお達者で たむらちせい

 宿屋で邂逅した、名も知らぬ遍路である。
別の目的でこの地を訪れ、偶然に一晩を同じ宿に投宿した作者は、
すでにその遍路に他人とは思えない友情を感じていた。
朝、早々に準備を済ませると、遍路は先を急ぐと言う。
元来口数の少ない者同士である。
くれぐれもお達者で、と声を掛けた後、
作者は恭しく両手を合わせた。
しかし、それをしたのは作者ばかりではなかった。
遍路も同じように、作者へ向けて手を合わせると、
その無事を祈ったのである。遍路は危険な旅である
ましてや冬の寒さの中、
北風に身を切られ雪に足を奪われて、
山間の道なき道を進まねばならない。
うまく宿を取ることができなければ、
寒さに命を奪われる危険さえ伴うであろう。
しかし、それを押して、
冬の遍路は一旅人に過ぎない作者の安全を祈願した。
作者はそれに心を打たれた。己の身を顧みるよりも、
まず目の前の人の身を案ずる。
それは、遍路という厳しい修行が、
彼に悟りを開かせた証である。
いよいよ己の人間の小ささに気づかされた作者は、
遍路の背中が遠くなり、やがて見えなくなるまで、
その場からずっと遍路の無事を願い、見送っていたことだろう。


参照 
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880622271/episodes/1177354054880622272
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