竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

みるみると籠に満ちたる蓬かな  清水良郎

2018-08-08 | 今日の季語



みるみると籠に満ちたる蓬かな  清水良郎


 よく晴れた早春の一日、
作者は野に出て、蓬を摘み始めた。
地面にはようやく芽を出したばかりの草が、
地面に這いつくばるように、
産毛の多い若葉を懸命に空へ広げている。
作者はその柔らかな草の上に空っぽの籠を置き、
名もなき草に紛れて萌え出した蓬の葉を選んで摘んでいく。
空には鳥が囀りながら飛んでいる。
耳元には涼しい風が吹き抜けている。
まだ冬の装いの体は動かしにくく、
屈みながら地面の草を摘む作業は思いのほか体に応える。
しばらく蓬摘みに精を出していると、
じわりと額に汗が滲んだ。
太陽は先程よりやや南方へ高まり、
地面からはうっすらと陽炎も兆している
ふうと息をついて立ち上がり、
大空に顔を向けて腰を伸ばす。
体からぎりぎりと音がするようだ。
見れば、空っぽだったはずの足元の籠は、
もう底から半分ばかりも蓬の葉で満たされている。
そんなにたくさん積んだ実感はないのにと、驚く作者。
地面にはまだまだ緑の葉が無数に点在し、
たっぷりの日差しを喜ぶように浴びている。
摘んでも摘んでも、とても摘み切れる量ではない。
本格的な春の到来を感じ、
籠の蓬も作者の心も、充実感に漲っている。

参照 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880622271/episodes/1177354054880622272
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