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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

どちらを向いているか:小保方事件を想う

2011-04-04 10:59:38 | アーカイブ
私は科学者、それも生物学者なのに、一連の小保方問題にコメントしてきませんでした。でも、ここいらでそろそろ考えを書いておきます。
 あの報道がされたとき、「若い女性が活躍してすばらしいなあ」と思ったのでした。悪い意味で、これまではこういう大成果は実質若手でもその指導者が会見することが多かったように思っていたからです。しかし疑義が出されてからは、小保方さんはクロだとずっと思ってきたし、同時に理研の態度はまったく納得できないと思って来ました。
 彼女は人類のために自分が役に立ちたいと本当で思っていると感じます。その思いは非常に(たぶん異常に)強いでしょう。それが故に嘘をつくまでになったと思います。しかしその役に立ちたいという気持ちは、農民が「おれがこうして米を作ることが社会のみんなを食べさせることになっているんだ」と思うことや、幼稚園の先生が「かわいいこの子たちがのびのびと育ってくれたら、それで十分だ」と思い、それで十分としながらも、心に一部に「そういう形で私は社会に貢献したい」と思うこととは大きく違うと思います。世の中に役に立つということを社会に伝えてすばらしい人だと思われたいという思いが異常に強いがために、「そうありたい」が「そうでなければならない」になってしまったのではないかと思います。そういう心理の人というのはいるようで、寸借詐欺をする人に中には、本人には悪気がなく、都合の悪いことは忘れる(ことができる)人がいるらしいです。
 小保方さんがこうした過ちを犯したことをマスコミや一部の知識人は背景に最近の業績主義があると分析します。そうかもしれませんが、こういうことは昔からあります。東大の植物学の先生がある植物の花の部分を切って、別の花をくっつけて「新種発見」と発表し、あとでバレたという事件があります。ことの本質はどこにあるかといえば、自然のことを知りたくて自然そのものに向き合っているか、自分の功名をあげたくて、人を相手にしているかの違いです。
 このことは私にとっては実に明快です。私は自然のことを知りたい。そのために半世紀を、非才を顧みず、わりあいがんばってきた。夢中になりすぎて、周りに迷惑をかけたり、不器用なために日常生活はとんとだめで、家族に迷惑をかけたりの連続ではありましたが、そのことについてはモンゴルの青空のように晴れ晴れとしています。たいした業績は上げることはありませんでしたが、嘘は書いていません。その清々しさは我ながら気持ちがいいです。
 小保方さんに戻れば、私に言わせれば問題はそんなにややこしいことではない。白日のもと、彼女といっしょに別の人がSTAP細胞を作ればよい。できないはずだから、それでおしまい。それだけのことです。巨額を使って1年かけて調査するという理研の発表もよくわからない。なぜそんなにかかるのか。彼女は200回も作ったというではないか。そういうことです。
 理研はあれこれ言っているがポイントがずれていると想います。論文の8割がコピペであることを不正ではないとしたが、何を言っているのだと問いたい。1文であっても人の文章を写すなどということは科学者として不正でないわけがない。挙げ句の果てに、調査委員会の委員長自身が写真の切り貼りをしていたとは何ごとか。私はこの人が会見で小保方さんの批判したときの心の中を図りかねます。私が彼なら(そんなことはありえないが)、委員長を頼まれたとき、あれこれ理由をつけて辞退します。あれによって日本の生命科学は計り知れないダメージを受けたと思います。要するに、あれを見て、社会は、つまり当たり前の常識をもつ人たちは「あいつらは平気で嘘をつく連中だ」と思った。当然です。毎日みかける「どうもすみませんでした」といって頭をさげる会社経営者などと同類にしか見えないのですから。
 その意味でおととい(6月12日)の外部委員会のコメントはきびしくて気持ちがよかった。もっと早くこうすべきでした。ただし私自身は割烹着であったことを批判することはないと思います。本当にすばらしい研究をした人にお気に入りのスタイルがあって、それが個性的であれば、別にかまわないではないか。これを書く私は田中優子さんのことを想っています。違いはここでも、自分が好きで着ているか、奇をてらって人から注目を集めたいか、要するに人間の格の違いだということです。
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