木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

福本清三さん

2007年07月25日 | 武士道の話
久々にハリウッド映画「ラスト・サムライ」を観た。
その理由は福本清三という人の書「おちおち死んでられまへん」という本を読んだからだ。
福本さんは脇役、というか脇役の脇役、エキストラ専門の俳優である。役柄は斬られ役がほとんどだと言う。
その本を読んでいて面白かったのは、福本さんはフリーの俳優ではなく、東映の契約社員で、月給制であり、定年もある、ということである。
俳優というと華やかなものを想像しがちであるが、大部屋付と呼ばれる福本さんのような存在なしには、映画も成り立たないのが事実である。
さすがに豊富な経験の持ち主だけあって、面白いエピソードがたくさんあるのだが、主役俳優について絶対に悪口を言わないところなど、さすがである。
新幹線に置いてある雑誌の「エッジ」に掲載されていたのだが、昔の俳優は色男でも顔が大きかった。現在、小顔の俳優がもてはやされるのは、求められる俳優に可愛らしさ、少年性が求められるからだという。本書にも、北大路斤也の父親である市川右太衛門について述べている部分がある。この御大も例に漏れず、顔が大きかったと言う。旗本退屈男の撮影の時である。そのビッグフェイスに白いドーランを塗りたくり、つけまつげをして、額に三日月傷の市川御大に斬りかかろうとする若かりし頃の福本氏。「ぬぬっ」とにらみつける御大。「その顔の大きいこと!」、あまりの怖さに斬り込めず、「斬り込み方が遅い!」と御大に叱られてしまったそうである。異形とも言えるような大げさなメイクのビッグフェイスに至近距離から睨まれては、確かに迫力満点で怖かったのでないかと思う。その点では、今どきの小顔ベビーフェイスで睨まれても迫力はありゃしない。
その福本さんが、「ラスト・サムライ」に出演することとなる。
トム・クルーズ演じるオールグレン大尉の見張り役兼警護役(サイレント・サムライ)という設定で出演。
福本さんは、この映画では、変なあごひげと月代をしっかり作っているせいか、猿っぽい顔になってしまっているが、浪人の髪型にすれば、痩せ形と相まって表情次第では残忍にさえ見える人なのだが。
アメリカへ入国する時のエピソードが面白い。
映画は全て地毛で行くでいくという前提で、頭の両側の髪を長いまま残し、トップをばっさりとカットした福本氏。逆モヒカン刈の様相である。そのままではさすがに不審がられるだろうと、野球帽を被って入国審査へ。パスポート所得時はパンチパーマ。野球帽を取るように言われ、指示に従うと、見たこともないような異様な髪型が・・・。さすがに自由の国アメリカでも仰天したらしい。ヤクザではないかと疑われた福本氏はなかなか入国できなかったと言う。
五百人のエキストラを使い、準備と撮影で三ヶ月の期間を要したというハリウッド映画。
永らく日本映画の内部を見て来た福本さんをうならせるのに十分。
最初にこの映画を観た時は、どうしても時代考証に気が行きがちで、「あそこは違うな」「ここも違うな」などとチェックしてしまったが、福本さんに言わせるとスタッフは、「どうやってこんなに調べたかと思うほど資料をあたったみたいだ」とし、「見事な時代考証だ」と言わしめている。
考えてみれば、日本の時代劇だっておかしなものだ。
「ひとぉつ、人の生き血をすすり、ふたぁつ、不埒な鬼を」なんて言ってる間に斬りかかってきけばいいわけだし、どういう訳だか主人公の背後に回った敵もひとりひとししか斬りかからない。おまけに斬った死体もいつの間にかなくなっている。人を斬った時の「ぶしゅ」などという効果音もおかしなものだ。
背景にしても、奉行所の門にわざわざ「南町奉行所」と書かれていたり、居酒屋などの設定もメチャメチャである。
それから考えてみれば、「ラスト・サムライ」の間違いを責めてもいられない。
DVDの付録として、背景を作った人たちのインタビューも収められているが、このインタビューも興味深い。
リリーなんとかという女性なのだが、1876年と1877年の差異にこだわっていて、1877年には電話線が架設されていたというこで、電話線のある明治の東京の風景が描写されている。この場面は、前近代と近代が交わるところとして、必要性を感じていたのだろう。1877年には西郷隆盛の西南の役が起こっているので、この映画のモデルがその辺りにあることも分かる。そして確かに日本で最初に電話が通じたのが1877年であるから、しっかりした時代考証ということになる。
ただし、日本人としては桜と藤が同時期に咲いていたり、黄色のピーマンが農家に植えられていたり、ともっと気になるがいくらでもあるのだが。
この映画の振り付けは「グラディエーター」の振り付け師が行ったということで見応えがある。ただ、回転技しながら敵を斬るなどというのは、長い日本刀向けでないような。
あと、これは日本の時代劇にも言えることだが、刀を鞘から抜くときに金属音がするが、あれは気になります。鞘は木製であるから、金属音はしません。細かいことですが・・・。

おまけですが、効果音についてこんなHPを見つけました。興味がある方はどうぞ。

「おちおち死んでられまへん」 福本清三 小田豊二 集英社文庫


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