「よく分からないんですが、仮にあなたが一九その人だとして、ずっと江戸時代から生きているとしたら」
自分でも馬鹿らしく思いながらも、何歳だろうと数えた。
「わっちは天保二年に六二歳で死んだとある。西暦ってやつでいうと1831年だ。するてえと、わっちの今の年齢は176歳てことになる」
「それを私に信じろと?」
「普通、信じないわな」
「夢を見ろ、とはその年齢を信じろ、ということですか」
「事実を教えてやろう。おめえに理解できるようにいうなら、SFってやつだ。タイムマシン、時空間、タイムスリップ、なんと呼んでもいい。ただ、わっちは死ぬ前にこっちの時間に滑りこんだというだけだ」
(笑ってくれ)
俺は心の中でそう呟いた。
(そんなことあるわけねえじゃないか)
と、目の前の老人が笑うのを待った。
実際は、何も起こらなかった。
長い沈黙が続いただけだった。
その間も老人は、煙をくゆらせている。
「まあ、いいってことよ」
老人は笑う代わりにそう言った。
「昔は川には河童がいたし、町には幽霊がいた。今って世の中はそんなことも信じられねえんだろ。そんな中で生きてるおめえにいきなり、こんな話を信じろってのも無理な話だ。いくつかルールを守ればおめえの聞きたい話を教えてやる」
「ルール?」
「その一。わっちを誰だなどと二度と聞かないこと。わっちは一九だ。今日のルールはそれだけだ」
「はあ」
この老人は俺に何を教えようというのだろう。
「今日は深川の河童騒動について聞かせてやる。あれは梅雨も終わりかけの頃、時は西下(松平定信)のご改革の真っ最中のことだった」
老人はそういうとキセルを置いた。
自分でも馬鹿らしく思いながらも、何歳だろうと数えた。
「わっちは天保二年に六二歳で死んだとある。西暦ってやつでいうと1831年だ。するてえと、わっちの今の年齢は176歳てことになる」
「それを私に信じろと?」
「普通、信じないわな」
「夢を見ろ、とはその年齢を信じろ、ということですか」
「事実を教えてやろう。おめえに理解できるようにいうなら、SFってやつだ。タイムマシン、時空間、タイムスリップ、なんと呼んでもいい。ただ、わっちは死ぬ前にこっちの時間に滑りこんだというだけだ」
(笑ってくれ)
俺は心の中でそう呟いた。
(そんなことあるわけねえじゃないか)
と、目の前の老人が笑うのを待った。
実際は、何も起こらなかった。
長い沈黙が続いただけだった。
その間も老人は、煙をくゆらせている。
「まあ、いいってことよ」
老人は笑う代わりにそう言った。
「昔は川には河童がいたし、町には幽霊がいた。今って世の中はそんなことも信じられねえんだろ。そんな中で生きてるおめえにいきなり、こんな話を信じろってのも無理な話だ。いくつかルールを守ればおめえの聞きたい話を教えてやる」
「ルール?」
「その一。わっちを誰だなどと二度と聞かないこと。わっちは一九だ。今日のルールはそれだけだ」
「はあ」
この老人は俺に何を教えようというのだろう。
「今日は深川の河童騒動について聞かせてやる。あれは梅雨も終わりかけの頃、時は西下(松平定信)のご改革の真っ最中のことだった」
老人はそういうとキセルを置いた。
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