「先生、今日授業が終わるどこにいるの。」
双子のお姉さんである聡子が聞いてきた。
妹は隣のクラス、1年1組だ。
母親はぼくのクラスの保護者会には出席せず、隣のクラスに参加していた。それも毎回。
信頼されているからだろうか。
あるいは、連日発行する学級通信で、子どもの様子がわかるからだろうか。
もしかしたら、ただ単に避けられているだけかもしれない。
「うーん、今日は授業の後、多分教室でテストの採点と明日の用意をしていると思うよ。どうして」
「何となく聞いてみただけ」
そう言うと、聡子はぼくの前から走り去った。
帰りの会が終わる。
といっても、たださようならをするだけ。
翌日の連絡は給食の後に済ますことにしている。
だらだらと帰りの会をすることはしない。
子どもの下校後、少し肌寒い教室で明日の授業の準備をしていた。
トントン
窓ガラスが鳴った。
教室は一階。放課後は校庭開放がされていて、誰でも自由に校内に出入りできる。
外を見ると、聡子が手を振っている。
ぼくはゆっくりと窓へ近づき窓ガラスを開けた。
「やあ。遊びに来たの」
「先生、これ」
彼女はぼくに小さな紙袋を手渡す。
そして一目散に校庭の方へ向かって走り去った。
「何だろう」
紙袋を開けてみた。
何と中身は手作りのチョコレート。
紙袋は少し暖かい。
彼女の息を切る表情から、手に握りしめながら、走ってきたことがわかった。
聡子はどちらかというと内気なタイプ。授業中も進んで発言することはあまりない。
それでも、こうしてチョコレートを手渡す行動力があることに驚いた。
学校に食べ物を持ってきてはいけないという規則がある。
だから放課後だった。
高学年の女子になると、教師に隠れて平気でチョコレートを手渡ししている。
これはぼくの子どもの頃から変わらない。
でも1年生は違う。
きちんとルールを守りたがる。
一カ月後聡子にあめをお返しした。
帰りの会の後、そっとロッカールームまで連れて行って、
「お礼だよ。」
と言いながら、手渡した。
翌日お母さんから次のようなお手紙をいただいた。
「昨日はあめをありがとうございます。
学校から帰ってくると、私に、これ先生からもらったの、と嬉しそうに見せてくれました。
包みを開けては閉じ、開けては閉じを繰り返しています。あめを食べようとはしません。先生、どうもありがとうございました。」
彼女のチョコレートを口に含んだ。
ほんのり甘く、不思議な形。
今でも、1年生を担任したときの心温まる日々が、ぼくを癒し続けている。
Goo
多くの方に楽しい旅をしていただければと思います。
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信頼されているからだろうか。
あるいは、連日発行する学級通信で、子どもの様子がわかるからだろうか。
もしかしたら、ただ単に避けられているだけかもしれない。
「うーん、今日は授業の後、多分教室でテストの採点と明日の用意をしていると思うよ。どうして」
「何となく聞いてみただけ」
そう言うと、聡子はぼくの前から走り去った。
帰りの会が終わる。
といっても、たださようならをするだけ。
翌日の連絡は給食の後に済ますことにしている。
だらだらと帰りの会をすることはしない。
子どもの下校後、少し肌寒い教室で明日の授業の準備をしていた。
トントン
窓ガラスが鳴った。
教室は一階。放課後は校庭開放がされていて、誰でも自由に校内に出入りできる。
外を見ると、聡子が手を振っている。
ぼくはゆっくりと窓へ近づき窓ガラスを開けた。
「やあ。遊びに来たの」
「先生、これ」
彼女はぼくに小さな紙袋を手渡す。
そして一目散に校庭の方へ向かって走り去った。
「何だろう」
紙袋を開けてみた。
何と中身は手作りのチョコレート。
紙袋は少し暖かい。
彼女の息を切る表情から、手に握りしめながら、走ってきたことがわかった。
聡子はどちらかというと内気なタイプ。授業中も進んで発言することはあまりない。
それでも、こうしてチョコレートを手渡す行動力があることに驚いた。
学校に食べ物を持ってきてはいけないという規則がある。
だから放課後だった。
高学年の女子になると、教師に隠れて平気でチョコレートを手渡ししている。
これはぼくの子どもの頃から変わらない。
でも1年生は違う。
きちんとルールを守りたがる。
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「昨日はあめをありがとうございます。
学校から帰ってくると、私に、これ先生からもらったの、と嬉しそうに見せてくれました。
包みを開けては閉じ、開けては閉じを繰り返しています。あめを食べようとはしません。先生、どうもありがとうございました。」
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