たびびと

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踊らない理由

2012年07月24日 | 特別記事
ジェシカとのんびり話をしていると、夜の11時になる。

スペシャルタイムの時間だ。
店内全ての女性が水着になり、テーブルの上で踊りだす。客席は2階を除いてほぼ満席。クラブは熱気に包まれる。

女性の人数は50人を超えている。
あることに気づいた。

よく見ると、店に入ってから一度も踊らない女性がいる。スペシャルタイムになっても、客と一緒に座っている。

「あそこにいる女性は踊らないの」
テーブル上のダンスが終わって、アンジェラに聞いてみた。

「そうよ。彼女たちはおしゃべりをして、お酒を飲むだけ。踊るのが好きではないの。恥ずかしかったり、体に自信がなかったり、まだ入店したばかり、と理由はいろいろよ」

田舎のナイトクラブとはスケールの大きさが違う。確かに、この大勢の人の前で踊るのは勇気がいる。

夜は11時をまわる。
もともと早寝早起きなので、この時間まで起きているのは結構つらい。

「そろそろ遅いから帰るよ」
「本当? 今度はいつ会えるのかしら」

「来週にはまた来られると思うけど」
「ありがとう。待ってるわね」

さよならのあいさつ代わりに、彼女はぼくの左の頬へのキスをしてくれた。




次の土曜日、同じく夜9時。
クラブのドアを開くと、ボーイを待つことなく、先週と同じ席に座った。

すぐに彼女がやってきた。

「待ってたわ。約束守ってくれたのね」
彼女の表情から、リップサービスではなく、本心で言っているように感じた。

「明日、日曜日だけど、よかったらお昼でも食べない」
「本当? もちろん行くわ」

「どこに迎えに行けばいいのかな」
彼女は自分の住んでいる場所、昼間の生活のことなどを語り始めた。

翌日の1時、彼女と待ち合わせをすることにした。
彼女は、ナイトクラブ向かいの大きな家に住んでいた。そこには、ナイトクラブで仕事をする何人かの女性が住んでいる。ナイトクラブのオフィスもあるそうだ。


翌日1時5分過ぎ。
タクシーをその家の横につけた。

家の入口、ドアの外に何人かの若い男性が話をしていた。
タクシーを待たせ、入口まで歩く。

昼間とはいえ、危険区域であることには変わりない。常に緊張を維持し、何かあったらすぐに対応できる心の準備をしていた。

「アンジェラを呼んでもらえますか」

「アンジェラー」
一人の男性が家の中へ向かって大きな声を出した。

待つこと1分。
彼女が入口の扉から出てきた。

ジーンズにTシャツ。ラフな格好だ。化粧はしていない。
昼間にみる初めての姿。彼女の美しさはかわらなかった。

「眠くないの」
「昨日は3時に寝たから大丈夫」

夜遅くまで働いている女性たち。
サラリーマンより厳しい勤務条件かもれしれない。