壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

竜の玉

2009年01月24日 22時46分03秒 | Weblog
        竜の玉深く蔵すといふことを     虚 子

 竜の髯は、ユリ科の常緑多年草で、20センチメートルくらいの細長い葉を叢生、それを髯に見立てた名で、蛇の髯(じゃのひげ)ともいう。
 もともと野や山に自生している草だが、築地や生垣の下草として植えたり、つくばいの手水鉢の廻りや、軒の雨垂れの落ちる所などに植え込まれている。拙宅では、石の「わらべ地蔵」の脇に生えている。いま、これが美しい碧色の実をつけているが、これは実でなく種だという。

 ユリ科といっても、竜の髯はごく地味な目立たない草で、初夏に淡紫色の小花を、込み合った葉陰に、ひっそりと咲かせているだけで、いっこうに人目にはつかない。

        深々と沈みて碧(あを)し竜の玉     喜 舟

 しかし、常緑の竜の髯は、辺りが冬枯れの白茶けた頃になると、深々とした濃い緑を茂らせて、かえってその存在を目立たせて来る。
 その込み合った細い緑の葉の中に、吸い込まれるような魅力を持った碧い玉。南天の実くらいの小ささながら、千尋の海の深さにも等しい、神秘さを湛えているのが、竜の玉である。
 竜の玉の碧さは、磨き上げたサファイアにも喩えられるであろうか。いやいや、そんな浅はかなものではない。その艶やかな肌は、翡翠の玉といえるだろうか。いや、もっと純粋な美しさである。

        亡師ひとり老師ひとりや竜の玉     波 郷

 初冬の頃の淡いコバルト色から、この頃の紺碧の深さまで、自然は、手塩にかけてこの小さな玉を磨き上げてきたのである。まるで先生が、生徒一人ひとりを磨き上げるように。
 だから、あの伝説的で神秘な動物、竜の抱く玉と呼ばれることとなったのであろう。

        なまぬるき夕日をそこに竜の玉     稚 魚

 竜の玉は、ところによっては子供たちが「はずみ玉」などといって、これをもてあそんだりしている。
 竹鉄砲に入れて、ポンと飛ばしたり、皮をむいて芯を板の間ではずませたり、用途は山の子供がよく知っている。
 はずみ玉という名があるように、この半透明な芯は、じっさいよく弾む。


      竜の玉 旅の一夜は星をみて     季 己